偏りすぎた食生活の影響が

翌日、母ケロリとしていたが、放っておくのは危ない。朝食もそこそこに支度をし、タクシーで病院に直行した。

受付で状況を伝え、脳血管性の認知症であることを説明すると、脳神経外科を案内された。血液検査をし、MRIを撮り、診断を待つ。母はその間も呆然と座っているばかりで、話しかけにもきちんとした返答がなかった。

結果は、思いもよらぬものだった。病名「低ナトリウム血症」。脳神経外科というより、内科の範疇の病名だ。
もしかして、長期間たいへん偏った食生活をしていませんでしたか

おずおずと医師が尋ねた。悪いことでも聞くように。 

「ウチに来る前はろくなものを食べていませんでした」 

医師は怪訝な顔で私と母を見比べた。そこに至るまでの経緯をざっくり説明すると、彼は、ははあ、と納得の表情を浮かべた。
「ちゃんとしたものを食べていなかったので、塩分不足になっていたんですね。でも、命があったのは、おそらく水やお茶だけでなくビールを飲んでいたからでしょうねえ。主な栄養源がビールだった。不幸中の幸いです」

栄養源はこれだけだった…Photo by iStock

父の死後、死にたくて浴びるほど飲んだビール。実家に行ったら行ったで、今度は伯母との晩酌が毎日の習慣になった。実は、圧迫骨折で入院した恵子伯母も、病院で検査をしたところ、栄養状態はそこそこ良いと診断されていた。

母も伯母も、電話のやり取りでは「栄養バランスを考えて食べている」「目玉焼きとほうれん草のお浸しとお味噌汁とご飯を食べた」などと言いながら、家で料理をした形跡はなかった。老女二人でいた実家の様子から想像すると、ビール、ビール、お茶、ビール、たまに稲荷寿司、みたいなローテーションだったのだ。健康的な生活からは程遠い食生活である。しかし、のどごしが良くて爽快感のあるビールは、ご飯よりおかずより、幸福感を与えてくれるものだったのだろう。