風呂場でプカリ。突然の異変に不安が募る

慌てて1階に下り、風呂場の戸を開けた私の目に飛びこんだのは、浴槽の手すりをつかんだまま、仰向けにプカリと浮いている母の姿だった。意識はある。でも、様子がおかしい。お母さん! と声をかけるが、こちらに目を向けず、中空を睨んでいる。浴槽から出ようと奮闘しているうち、力尽きてしまったのか。手すりを放さないでいてくれてよかった。

手すりを掴んでいてくれてよかった… Photo by iStock

手を握らせて引き上げようとした。しかし、私の手にすがって脚を動かしても、底に足がつくまえに浮いてしまう。体が軽すぎるのと、握力・腕力が弱くなっているのとで、にっちもさっちもいかない。

靴下もスカートもそのままで浴槽に入り、母を引き上げた。ずるずると引きずり出された母は、風呂場の床に失禁した。

娘にバスタオルとタオルを持ってこさせた。シャワーで汚れを流し、体を拭いて、とりあえず下着とパジャマを着せる。体を支えて2階に上がり、冷ました白湯を飲ませた。その後、近所の自動販売機に走り、アイソトニック飲料を買ってきて少し与えた。老人の脱水症状は危険だと聞いていたからだ。

母はこのところ無表情なので、顔から体調を読み取ることは難しかったが、見るからに朦朧としていた。しばらく目が離せない。ベッドの近くにノートパソコンを持ってきて仕事をすることにした。

布団に入れてから30分ほどしたとき、気持ち悪いーと、母の低い声がした。振り返るとベッドから起き上がろうとしていて、抱えてやるとそのまま嘔吐してしまった。新たな脳梗塞を疑って、休日夜間診療の受付電話に問い合わせた。

電話口で年齢や経緯を伝えたが、夜中に受診するほどの緊急性はないと判断された。翌日朝いちで、付近でいちばん大きな総合病院に行くことにした。

改めて布団に寝かせたものの、何が起きるかわからない。寝ている間に嘔吐して、窒息する恐れもある。夜中もときどき起きて様子を見ていたら、立ち上がってウロウロしている。どうしたの、と声をかけたら、トイレの場所が分からなかったらしく、数歩歩いてまた失禁してしまった。母はそれまで、排泄は自力でしていたので、リハビリパンツなどの用意はない。下着とパジャマを着替えさせたが、何をしてもなすがままで、目がうつろだ。母の身に何が起きたのだろう。