感染症の現実の心理や問題点をきちんと描く

私は、存在を知ってから、2回この作品を観ている。初回は2月半ば、「おぉ、なんだかリアルだな、こんなになったら怖いな」という感想だった。このときは、私自身もきっと大丈夫、という他人事モードがあったのかもしれない。そして、3月末にもう一度見ると、感じ方は大きく違っていた。リアルさが増したのはもちろんだが、現在の状況とあまりにリンクしていることが多く、驚くばかりだった。

いくつかその部分を抜出してみよう。

まず、CDCの感染症調査官で疫学者のエリンが、感染が始まったミネアポリスの保健局と会議をしているシーンだ。感染が始まったばかりで保健局も危機感がイマイチ薄い。もうすぐクリスマス商戦が始まる時期だからこそ、最小限に食い止められないのか、予防する手立てはないのか、エリンに尋ねるが、彼女は「人々の予測は困難である」という。
「ジョーズを恐れて海を避けても、平気でタバコを吸う……」と人の行動パターンの特性について彼女は言いかけるが、保健局職員はイマイチ真剣に話を聞かない。

死亡率として考えれば、一生のうち海で人食い鮫に出会うことはめったにない。逆にタバコを吸い続けることの疾患は科学的に証明されている。しかし、人はジョーズのほうを恐れてしまいがちだ。それぐらい人の恐怖とは曖昧であることを鋭く指摘しているセリフでもある。私たちも、感染率が増えているといっても、日本はまだ大丈夫という甘さがある。どこかアメリカのようにならない、自分が出かけるぐらい大したことにはならないはず、と考えがちだ。人々の動きを予測して予防するというのは、それだけ難しいのだ。

さらに、“感染の媒介物”に関する説明も映画の中でわかりやすく説明している。「人は1日に2000~3000回も顔を触り、起きているときには1分間に3~5回顔に触る」とエリンは保健局スタッフに説明をする。さらに、別のシーンでは、感染症に慣れているはずのCDCのスタッフも顔を触る癖があり、エリンに「顔を触る癖をやめて」と指摘を受けるのだ。その場面を観て、感染症のプロですら顔を触ってしまうのかと、専門家ではない一般人はもっと触るに違いない。だからこそ、手洗い含め、何に触るか意識して行動しなくてはいけないのだな、と改めて認識させられる。

今まで感染症を扱う映画やドラマはあった。最近気になって、他にも『アウトブレイク』や『12モンキーズ』、韓国映画の『FLU 運命の36時間』、日本映画の『感染列島』などを観てみたが、エンターテイメントとしてのおもしろさはあっても、エビデンスに基づく指摘をしている映画は正直あまり多くなかった。

他にも、『コンテイジョン』では、学校閉鎖案に対して「何を言っているの? 子供の世話は誰がするの? 親は社員だったり、公務員だったり、医師だったりするのよ」というセリフがあったり、「感染しているかもしれない、検査をしてほしい」と病院の受付に押し寄せる人たち、買い占めや略奪で荒れていく街、バイオ兵器なのではないかと疑う声など、実際に今回の新型コロナウイルスでとりあげられている指摘や問題が色々と描かれているのだ。

現実社会でも医療崩壊ギリギリの戦いが繰り広げられている。映画の世界が現実化しつつある。photo/Getty Images