足りないのはベッドだけではない。深刻なのは、重症者の治療に欠かせない人工呼吸器と人工心肺装置の不足だ。前出の坂本氏が語る。
「日本臨床工学技士会の調べでは人工呼吸器は日本全国で約2万8000台ある。またECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)は約1400台です。今後、感染者が増えれば、圧倒的に足りなくなる可能性が高いのです」
ECMOというのは肺機能が低下した患者の血液に酸素を送る装置で、亡くなった志村けんさんも装着していた。人工呼吸器でも救命が難しい重症患者に使われ、新型コロナ治療の「最後の切り札」とされている。
ただ、東京にはECMOは約200台しかない。しかも、ECMOを用いた治療には専門の医師と看護師、臨床工学技士が必要で、そうした人材の確保も極めて難しい。
そのうえ、今あるECMOをすべて新型コロナ感染者のために使えるわけではない。
「これらの機器は、ふだんは重症の細菌性肺炎や間質性肺炎、重症の心不全や心筋梗塞など緊急性を要する病気の患者さんに使っています」(坂本氏)
新型コロナ患者を救うためにECMOを使えば、今度は別の病気の患者が犠牲になってしまう可能性があるのだ。
坂本氏は続ける。
「患者数の増え方から分析すると、いまの東京は感染が爆発的に増え、ロックダウンとなる前のニューヨークと似た状況です。東京でも、ここから感染者が急増することも視野に入れるべきです」
ニューヨーク市の新型コロナ感染者数は3月末に3万6000人を突破している。東京も、感染爆発となって医療崩壊が起きるかどうかの瀬戸際にいる。