「恐竜化石vs農民インフルエンサー」が世界的研究者を仰天させた話

デジタル中国ならではの「発見」を追う
安田 峰俊 プロフィール

その後、邢立達は化石発見の過程の動画をSNS上で公開。いっぽう周超も化石ネタの動画を何度か投稿して好評を得た。

「西瓜視頻 @鄉村超娃」より。結果的に大発見をしてしまった周超。

「化石の発見が、論文として形になる前にこうしてSNSを通じて世間に広がることは、世間に恐竜研究を理解してもらう上でよいことだ」と邢立達はご満悦だったようだ。

中国地質大学で恐竜の足跡化石(記事中のものとは別)について説明する邢立達先生。2018年10月安田峰俊撮影

出稼ぎ先で恐竜にハマった農民

従来、中国の農民による恐竜発見は、発見者自身は知識を持っていないケースが多かった。中国は教育格差が大きく、地方の農村は一昔前までは情報の孤島に置かれていた。恐竜の知識など、得たくても得られない人が大勢いたのだ。

だが、近年はそうした事情も変化しつつある。

たとえば面白いのが、2019年春に四川省広安市の永興村の工事現場で発見された化石についてのエピソードだ。こちらの発見にあたって大きな役割を果たしたのが、永興村の村人・黎さんである。

黎さんは以前、村から沿海部の広東省珠海市に出稼ぎに行った経験を持つ人物。彼はそのとき、珠海市博物館で恐竜化石の展示を見て恐竜に関心を持ち、しばしば恐竜関係のテレビ番組を見るようになって、この世界に少なからず詳しくなってしまった。

 

黎さんは2013年に村に戻ってから自分も化石を見つけてみたいと考え、しばしば電動バイクに乗って近所の工事現場をパトロールするようになった。四川省が恐竜化石が出やすい土地であることは、すでに書いたとおりである。

やがて2019年5月末、黎さんは友人から、村内の羅家山付近の工事現場で奇妙な巨石が見つかったと耳にする。さっそく彼が愛車の電動バイクを駆って現場に急行したところ、やはり恐竜の化石であるように思えた。

そこでさっそく、地元の自然資源・企画局に連絡したのである。

趣味人のすそ野が広すぎて

専門家によると、黎さんが見つけたとみられたのは巨大な大腿骨に加えて、脊椎骨と頭骨の一部だと見られた。残っている部位の多さからみて、良好な保存状態の化石だったとみていい。

まだ研究は進んでいないが、新種である可能性もある(一般に頭骨の化石が残っていると、新種であるかどうか判断しやすいといわれている)。

農村からの出稼ぎ労働者でありながら恐竜オタクになった黎さんは、思わぬ大金星を挙げたというわけだ。

近年、中国の経済成長と情報化は、これまでは文化的には都市部との接点が限られていた農村部にも、趣味人を多数生み出すことになった。そうした社会の変化は、恐竜化石の発見という分野でもあらわれていると言えるかもしれない。

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