「恐竜化石vs農民インフルエンサー」が世界的研究者を仰天させた話

デジタル中国ならではの「発見」を追う
安田 峰俊 プロフィール

本当に恐竜の足跡だった!

邢立達は動きがすばやく、動画公開の翌日には、さっそく周超にアプローチしてきた。

逆に驚いたのは周超である。四川省の農村動画配信インフルエンサーのところに、中国地質大学の研究者から連絡がきたのだ。

「俺、最初は連絡をくれた人が誰だかわからなかったよ」と、彼は話す。連絡に対して足跡の画像を送ると、邢立達からは「すぐ行く」と返事がきた。

10月16日、さっそく邢立達は学生を連れて周超のところにやってきた。いまだに周超は半信半疑のまま、現場に案内。いっぽうで邢立達は足跡らしき凹みを見てなにか思うところがあったらしく、2日後には近所の自貢恐竜博物館の研究員たちを連れてもういちどやってきた。

 

「こんなに大げさに騒ぐようなものなのかい?」

思いがけない展開についていけない周超をよそに、邢立達と専門家たちは朝の9時から夕方の5時まで、現場をきれいにした上で測量や凹みの型取りをおこない、地面に張りつき続けていた。どうやら、本当に恐竜の足跡だったらしいのだ。

「西瓜視頻 @鄉村超娃」より。真剣な型取り。

SNS時代の発掘

さて、後日になり自貢恐竜博物館の彭光照研究員が地元のウェブメディア『紅星新聞』などの取材に対して語ったところでは、周超の近所の山で発見された足跡は合計8点。うち比較的大きな5点については大型の獣脚類とみられるエウブロンテス(実雷龍:Eubrontes)、ちいさな1点は植物食の恐竜かと見られるアノモエプス(異様龍:Anomoepus)、残る2点は小型の獣脚類とみられるグラレーター(蹺脚龍:Grallator)の化石だったとされる。

エウブロンテスやアノモエプス、グラレーターとは聞き慣れない恐竜の名前だが、これは実は「足跡に付けられた学名」だ。恐竜の化石は、本体それ自体の歯や骨だけではなく、タマゴや足跡も多数見つかっているのだが、タマゴや足跡の主が毎回しっかり判明するとは限らない(判明しないケースのほうが圧倒的に多い)。

ゆえに、タマゴや足跡「だけ」を指す学名が付けられるわけである。

「西瓜視頻 @鄉村超娃」より。周超の発見した足跡。

周超の近所の山から見つかった8点の足跡のうち、エウブロンテスのひとつは長さが最長55cm、幅43cmという巨大さで、おそらく体長6~7mくらいの大型肉食恐竜のものであると推測された。歩幅は4mもあり、おそらく走った際に付けられたのだろうとみられた。