「恐竜化石vs農民インフルエンサー」が世界的研究者を仰天させた話

デジタル中国ならではの「発見」を追う
安田 峰俊 プロフィール

彼はもともと両親とともに沿海部の浙江省に働きに出ていたが、2019年春ごろに地元に移住。「鄕村超娃」のハンドルネームを名乗り、動画サイト『西瓜視頻』で農村生活を記録する動画配信をおこなったところ、31.5万アカウントのファンを集める農民インフルエンサーになった。

ところで、彼が暮らす宜賓市は、実は恐竜化石の出土が多いことで知られる自貢市のすぐ隣である。

彼が両親に聞いたところでは、子どものころに村の老人から近所の山奥(「野鶏坡」という場所らしい)に巨大な「ニワトリの爪痕」があるという言い伝えを聞いていたという。そこで、2019年10月2日に現場に動画撮影に向かうことにした。

邢立達先生を呼ぼう

足跡があるとされた場所は、使われなくなった穀物干し場で、すでに雑草だらけになっていた。周超たちが困っていると、たまたま近所のじいさんに遭遇。じいさんの案内で足跡らしき現場に行ってその様子を動画におさめた。

だが、この地面の凹みは本当に恐竜の足跡なのか。周超たちも半信半疑のまま収録し、公開することになった。

公開された動画「西瓜視頻 @鄉村超娃」より。恐竜の足跡化石の発見現場へ向かう周超の母。強い。

ところが、ネット時代は情報が思わぬ形で伝播する。

 

周超がアップした近所の山の恐竜の足跡動画は微博(Weibo。Twitterに似た中国系SNS)を通じて広がり、ネットユーザーたちの間から「邢立達を呼んで見てもらえ」という声が沸き起こったのだ。

この邢立達(Xing Lida)は、中国地質大学の准教授。2016年に琥珀のなかに生前の姿のままで封入された恐竜の尾の化石を報告して世界を驚かせた、1982年生まれの気鋭の恐竜学者である。

邢立達は高校時代に中国初の恐竜情報サイトを立ち上げたデジタル世代の申し子であり、ネット上で「恐竜達人」のあだ名で呼ばれるオンライン上の有名人。

世界的な学者のはずなのだが、こうした事態の際に「召喚」されるのは当たり前のことでもあった(邢立達にご興味がある方は拙著『もっとさいはての中国』をお読みいただきたい)。