NYクオモ州知事、トランプを圧倒…歴然たる「リーダーシップの差」

アメリカが差し掛かる「大きな分かれ道」
池田 純一 プロフィール

もっとも、なかには、Priorities USA Action Fundという民主党支持団体のように、2月中にトランプが発した危機意識のない公式発言を、今になってトランプがことごとく覆していることを取り上げて、直接、抗議を示す者たちも出てきている。散々っぱら、コロナウイルスは大したことないとか、ワクチンはすぐできるとか、検査は誰でも受けられるとか、グーグルがすごいことをしてくれるとか、テキトーなことを3月半ばまで言い続けてきたにもかかわらず、3月17日になって突然、「いや、俺はこれはパンデミックだと知っていた。(WHOが)パンデミックと認定する前から知っていた」と、平然と言いのけることのできる「テキトー」さ。その上で、戦時大統領とまで自称するのだから、トランプ信者以外は、匙を投げてもおかしくはない。

なぜなら、あまりにも現実から遊離した、その場限りの発言でしかないからだ。先述のように、クオモの株が上がるのも、ひとえにその対比からだ。もっとも、クオモをはじめとする州知事たちからすれば、危機的状況において政治家に求められることを、あるいはリーダーとして求められて当然のことをしているだけなのだが。

 

戦争ナラティブの射程

この、いわばナラティブに憑かれたホワイトハウスという点で気になるのが、今回の経済支援策の原案を作った財務長官のムニューチンの存在だ。彼は財務長官になる前はハリウッドのプロデューサーで、それこそ、X-MENやDCユニバースの映画のクレジットに名を連ねていた。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』もムニューチンの製作だ。そのことを知ると、このコロナショックを、まさに「人類に対する危機」として捉え戦争ナラティブの中に位置づけるのもなんとなく納得できてしまう。

ムニューチン 〔PHOTO〕gettyimages

それは、たとえば、今回の救済策が検討され始めた初期の段階で、擬似的なベーシックインカムのアイデアが提出されたところにも見て取れる。連邦政府が個人宛に小切手を送り、毎月一定金額を渡すというアイデアからは、数年前のAIブームの折にシリコンバレーで議論された「AIが仕事を奪う」というSF的なナラティブが自ずと連想される。そうして、ベーシックインカム言説が煽ってきた経済崩壊のイメージを世の中に浸透させた上で、具体的な救済策を提案する。まずは個人を救済するという認識を与えた上で、企業や産業も保護する究極の財政出動を人びとに納得させる。そうすれば、リーマンショックのときの金融業界の救済策のように、なぜ、税金で金持ちだけを救うのか?という怨嗟も起こりにくくなる。

もちろん、今回の危機は、危機そのものが一種のロシアンルーレットのようなもので、誰に具体的な災厄が舞い降りるかわからない。それゆえ、普遍的な、誰をも公平に扱う必要性のある施策が選択できた。その意味では、確かに、誰にでも「公平」に死が訪れ得る「戦争」の比喩自体は、大きくは外れていなかったのかもしれない。実際、クオモにしても「戦争」という表現を多用している。

とすると、この戦争の比喩は同時に、「誰もが立場を入れ替え得る」という点で、第2次大戦後のリベラリズム――たとえば政治哲学者として名高いジョン・ロールズが述べた「無知のヴェール」の考え方など――を改めて実感させる機会となっているのかもしれない。誰もが公平に死を迎え得る「全滅」の可能性を想像する、という意味で。それはまた、公平な死、という点で極めてキリスト教的な死生観でもあるのだが。となると、この戦争ナラティブから想像されるリベラリズム回帰への機運を、実際のところ、共和党と民主党のどちらが掴み取るかで、コロナウイルス後のアメリカ社会の様子も全く異なったものになるのかもしれない。人びとの社会意識の大きな分かれ道にさしかかっているということだ。

編集部からのお知らせ!

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/