Illustration by Getty Images

今さら訊けない「ニューラルネットワークって何ですか?」に答えます

連載3回「AIブームの次にくるもの」
「ニューラルネットワーク」とは何か。発展するとディープラーニングになる、といった内容のない説明はできても、何をどう「学習」するのか、簡単に説明できる人は少数派かもしれません。

なぜなら「人間の脳のしくみ」と「ニューラルネットワーク」は大きく異なるからなのです。

手塚治虫のマンガに挑んだAIから考える、本当の「働き方改革」記事が話題の松田雄馬氏が10分でわかる解説を試みてくれました。

「人間の脳のように成長して学習する」と言われているニューラルネットワーク。その「深層学習」と呼ばれるしくみは、このたびのAIブームを牽引し、コンピュータ囲碁や将棋の性能を、人間のトップ棋士を打ち負すレベルにまで成長させた。

AIブームの次の時代を予測するうえでは、この、人間の脳のようなしくみと呼ばれる「ニューラルネットワーク」というものが何者なのか、という理解が欠かせない。

結論から言うと、「ニューラルネットワーク」は、人間の脳の神経回路の一部を模しているものだが、「人間の脳のしくみ」それ自体とは大きく異なる。だから、人間の脳と同等の知能を持つ「強いAI」が「ニューラルネットワークによって完成する」という一部の予想は間違っているといえる。

それでは、「ニューラルネットワーク」が達成したものとは何なのか。達成できなかったもの、すなわち、人間の脳にしかできないものとは何なのか。

 

それを考えるために、今回は改めて「『ニューラルネットワーク』とは何だったのか」をイチから解説しよう。

脳の神経細胞は何をしているのか

まず、「ニューラルネットワーク」について説明する前に、人間の脳の神経細胞について、簡単に説明しておきたい。

図1 脳の神経細胞(ニューロン)

脳を構成する細胞は、神経細胞(ニューロン)とグリア細胞の2種類であるが、このうち脳の信号伝達に主に寄与するのは神経細胞である(グリア細胞は脳の代謝や免疫系などの生存に最低限必要な役割を果たす)。神経細胞は、図1に示されるような特徴的な細胞であり、外見的に「細胞体」「樹状突起」「軸索」に分けられる※1
※1 甘利俊一他『シリーズ脳科学5 分子・細胞・シナプスからみる脳』東京大学出版会 (2008)

細胞の中心部が「細胞体」である(ここに細胞核やミトコンドリアなどの主要器官が含まれる)。細胞体から一定の太さで長く伸びる一本の突起を「軸索」と言い、ここから電気信号を放出する。すなわち、軸索は神経細胞の「送信側」の役割を果たす。

軸索の先端には「シナプス」と呼ばれる膨らみがあり、これが他の神経細胞と結合し、他の神経細胞へ電気信号を伝達している。シナプスから伝達された信号を「受信」する役割を果たすのが「樹状突起」である。

神経細胞(ニューロン)の以上の様子から、神経細胞は、単純に表現すると「(周囲の神経細胞から)信号を受け取って、それをまた(隣接する神経細胞に)送信する」という働きを持っていると言える。

図2 神経細胞における膜電位の変動の模式図

この様子を模式的に示したものが図2であり、周囲から信号を受け取ると「バースト発火」という電圧の高い状態と低い状態を繰り返し(発火)、再び低い状態に戻る(非発火)、というサイクルを繰り返していることがわかる。

「電球」をモデル化

神経細胞(ニューロン)は、以上のように、複雑な形状ではあるが、単純に考えると、「周囲から信号を受け取って発火し、周囲に信号を渡して発火を終える」という、ON/OFFを繰り返す「電球」のようなものであると考えることもできる※2
※2 実際、神経細胞は、ホジキンとハクスリーによって、電気回路によって表現できることが発見された。この研究は、1963年度のノーベル医学生理学賞を受賞している。