紙とペンで宇宙を見る「理論物理学者」はいつも何を考えているのか

「宇宙の根源」を解く新理論が見えた!
新版・窮理図解 プロフィール

論文を読んで、芸術作品を見た時のように感動したのは初めてでした。目から鱗が落ちるというか……。そして、どうしてこんな論文を書けるのかを知りたい、直接議論や共同研究をしたいと思うようになったのです。

──論文が「美しい」とは、どういったことでしょうか?

まず結果だけ見ると、自明でなく驚くような結論なんです。ところが、その結論に至るステップの一つひとつは、修士の学生でもわかるような非常にシンプルな論理で構成されている。そして、気付いたらすごく遠くまできているといった感じなのです。

ソンさんはいろいろな研究をしていて、物理のさまざまな分野で重要な理論をいくつも書いています。

  ダム・タイン・ソン氏(2012年よりシカゴ大学)は2018年にICTPディラック賞を受賞した

問題を設定してそれにアプローチしていく理論物理学では、特に、問題をどう設定するかが重要です。その点をソンさんから多く学びました。

そして、ニュートリノの輸送理論につながる「カイラル輸送理論」は、ソンさんと一緒に考えて2012年に論文にまとめたものです。

結果的にワシントン大学には2年5ヵ月いましたが、ソンさんがシカゴ大学に移るタイミングで、私はメリーランド大学のトーマス・コーエンさんのところに行きました。普段は冗談ばかり言っている人でしたが、誰かが面白い物理現象を提案して世界中の研究者がそれに同調しても、自分だけは反例をつくって発表するような人でした。

皆とは逆方向から攻めるのですが、単に違うことを言うのではなく、深く理解に基づいて論理的に問題点を明らかにしているところに感嘆しました。いろいろな物理学者と接しましたが、それぞれ考え方が違っており面白かったですね。

 

2014年から慶應義塾大学に教員として着任しました。嬉しいのは、学生たちがとてもフレンドリーで、授業が終わるとよく質問をしにきてくれることです。教員同士の関係や研究環境も良く、2015年にはキャンパスの枠を越えて「トポロジカル・サイエンス」プロジェクト(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)を立ち上げることができました。

2019年度からは、慶應義塾大学理工学部のKiPAS(慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート)の一員に選ばれ、5年間研究に専念できる環境をいただきました。これまで以上に超新星爆発の問題に力を入れています。教員としても研究者としても充実した日々を送っています。

山本直希(やまもと・なおき 慶應義塾大学理工学部物理学科准教授)
専門は素粒子・原子核理論。2005年東京大学理学部物理学科卒業。2010年同大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。ワシントン大学原子核理論研究所、京都大学基礎物理学研究所、メリーランド大学でのポスドクを経て、2014年より慶應義塾大学理工学部物理学科専任講師。2017年より現職。2019年よりKiPAS主任研究員を兼任。

取材・構成 池田亜希子
写真 邑口京一郎
デザイン 八十島博明、石川幸彦(GRID)
編集協力 サイテック・コミュニケーションズ
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