紙とペンで宇宙を見る「理論物理学者」はいつも何を考えているのか

「宇宙の根源」を解く新理論が見えた!
新版・窮理図解 プロフィール

実は、高校生のころに量子力学を独学で勉強したことがありました。しかし、シュレーディンガー方程式で複素数の波動関数が出てきて……。それ自体は観測できない波動関数が、どうして現実の物理量と関係するのかがわからず、チンプンカンプンでした。

大学の授業で、量子力学が構築されていく歴史的な経緯などを学び、高校時代にはわからなかった、その意味するところが理解できたのです。

──宇宙や素粒子を知りたくて、物理を選んだということですか?

私は数学のほかに宇宙にも興味がありました。ただ子供のころは、宇宙に対してどのようなアクセス方法があるかあまり知らなかったので、漠然と宇宙飛行士になりたいと思っていました。ところが大学で、物理は論理的な思考によって宇宙で何が起きているかをある意味で「見る」ことができるものだと知りました。

それは現在の宇宙に限りませんし、地球からの距離の制限もありません。初期宇宙の状態や、ずっと遠くのブラックホールや超新星で起こっていることも想像できます。宇宙に行くよりももっと広い意味で、宇宙にアクセスできるのです。

大学1年生の春学期に相対性理論や量子力学の授業を受け、徐々に物理が面白いなと思いはじめて、大学2年生の時には物理に進もうと決めていました。

物理で、壮大な宇宙やそれとは対照的なミクロの素粒子の世界を理解するには、数学的手法を使います。ですから、物理には数学も大いに役立っています。

──大学で始めたダンスもかなりの腕前だったようですが?

大学では今までやったことのないことをやろうと思って、東京大学の運動会の競技ダンス部に入りました。新人歓迎でいろいろな格闘技やダンスを見学しましたが、先輩たちのデモンストレーションで競技ダンスに一番感動したからです。全国大会でも優勝することがある強い部で、私もだいぶのめり込みました。

大学院の時に、ダンススタジオの先生に「プロにならないか」と誘われ、一時はダンサーになるか少し迷いました。しかし、やはり世界で勝負するなら物理だなと思い、理論物理学の道に進みました。

会いたい人には会いに行く

──東京大学で初めて所属した研究室は、どのようなところでしたか?

東京大学大学院時代の指導教員は初田哲男さんでした。2012年に理研に移られ、iTHEMS(数理創造プログラム)という新しいプロジェクトを立ち上げて研究されています。数学を使って、物理や生物などいろいろな現象を明らかにしようと、幅広く人材を募って、学際的に何かできないかと探っているようです。

もともと初田さんの興味の幅は広くて、すごく柔軟に別の分野のアイデアを取り込んで自分の分野の問題に応用したり、逆にアイデアを提供して別の分野の問題を解いたりしていました。私が、ある物理の考え方をほかの分野で応用しようと考えるところなどは、まさに初田さんの影響を受けていると思います。

──アメリカでの海外経験や、その動機についてもお聞かせください。

2010年3月に博士号を取った後、「海外学振(日本学術振興会の海外特別研究員制度)」という制度を使って、当時、一番尊敬していたダム・ソン先生のいたワシントン大学に行きました。

ワシントン大学 Photo by iStock

ベトナム人のソンさんは、実に美しい論文を書く研究者です。物質をどんどん圧縮していくと、最終的にはクォークの超伝導状態になると考えられているのですが、私は修士の時に「そこに至るまでの間にはいったいどのような状態をたどるのか」という問題を考えていました。

そのころに、ソンさんが書いた「クォークの超伝導状態を記述する理論」についての論文を読んだのです。