ノーベル賞学者と考える、これからの社会に必要な「利他」の視点

大隅良典×中島岳志×伊藤亜紗

理工系の大学である東京工業大学では異例の人文系研究組織「未来の人類研究センター」が立ち上がった。人文知と理工系の知はどう連携していけるのか――。センターの発足を記念して、同センターのメンバーである政治学者の中島岳志氏、美学者の伊藤亜紗氏が、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者の大隅良典氏と鼎談を行った。

サイエンスを「文化」として考える

伊藤 2020年2月に、東京工業大学科学技術創成研究院の中に「未来の人類研究センター」という人文系の組織が創設されました。この研究院には大隅先生の細胞制御工学研究センターもあり、「お隣さん」というのはおこがましいのですが、せっかくの理工系と人文系の出会いを私たちとしては最大限生かしていきたいと思っています。そのためにはどんなことが可能なのか、大隅先生のお話をうかがいたく、政治学が専門の中島岳志さんとともにやってまいりました。

大隅 あんまりふさわしいかどうかわかんないですけど。引き受けて「あ、しまった」と思った(笑)。

大隅良典氏
 

伊藤 まず、先生は、サイエンスを「文化」として考えていきたい、とおっしゃっていますよね。

大隅 日本では科学というと、「何やってるの」「何の役に立つの」というのが、すぐに問われる。そういう社会通念みたいなものが少し破れてくれないかな、という思いが根底にあります。

永田和宏(細胞生物学者、京都大学名誉教授、京都産業大学タンパク質動態研究所所長)という私の友人が、別に人間は「役に立つ」といった効率性の観点だけで生きてるわけじゃないと言っています。

彼がよく引き合いに出すのは「桐生*が10秒切った」(*100m走公認記録で日本人史上初の9秒台を出した陸上競技の桐生祥秀選手)、とみんなが喜ぶのは、「役に立つ」ということでは説明できない、という話。音楽会でも「ああ、役に立った」と言ってみんなが感動するわけではない。科学についても、サイエンスがこういった種類の活動だということが理解されると、もう少し人間の社会が豊かになるだろう、というのが私の思いです。

そうでないと、「もう日本は貧しくなったからお金を出せない」という枕詞のもと、「役に立つこと以外は排除しましょう」「人文系は役に立たない学問だ」という議論になってしまう。やはり、人間の知的な欲求を満たす活動、純粋に人間の生活を豊かにしていく活動として、科学を捉えたい。