皮を厚めにむいた、
絶品ホワイト・アスパラ

あれは晴れた春先の、午後のことだった。パリを歩くなら、表通りより裏通りがおもしろいことに気づきはじめていた私の目が、素晴らしいシーンをとらえたのだった。オペラ座近くの、レストランの裏口ばかりがならんだ、繁華街の地味な路地でのことだった。

レストランの裏口の、半開きになったドアの隙間からみえた光景に、目が釘づけになった。大量のホワイト・アスパラの山をまえに、ブルーの前掛けをしたエジプト人が黙々とその皮をむいているではないか。左手で薄紫の芽の部分をかばうようにしながら、根元の部分から勢いよく包丁を入れる。一刀むきという言葉があるとしたら、それである。

どれほど、時間がたっただろうか。気がついたときは、皮をむかれて下準備されたホワイト・アスパラが、私に向かって微笑んでいるようだった。

帰りにさっそく市場に寄って、ホワイト・アスパラを一キロ買った。自宅にもどりエプロンをつけるのももどかしく、私はその皮を丁寧に包丁でむいた。なれるにしたがい、皮がリズムを持って静かにゴミ箱に落ちるようになった。たっぷりのお湯で茹でてて塩するだけで、ホワイト・アスパラのみずみずしさが口いっぱいに広がる。ちなみに太さによって茹で時間は異なる。フランスの直系2センチくらい太いものは30分茹でていたが、日本でポピュラーな細いものなら、グリーン・アスパラガスと同じ程度でよい。ソースはサラダ油で伸ばしただけのマスタードソース(ソースムタール)を添えるのが私は好きだ。生ハムもあるとさらにご馳走になる。

素晴らしいご馳走になる Photo by iStock

その日以来、春になると私は市場にホワイト・アスパラの初物が出るのを待ちかねるようになった。はじめてそれをご馳走になったすぎし日の記憶が、ただでさえ美味しいホワイト・アスパラの味を際立たせてくれる。思い出というスパイスを加えて、料理の味が一段と深みをますのである。
 

お金がなくても平気なフランス人、お金がなくても不安な日本人』日本が大好きだから、そしてフランスも大好きだから、そのいい所を思う存分真似したら、もっと幸せになるんじゃない? 底抜けに明るく優しく、かつ鋭い視点をもつ吉村葉子さんが20年間のフランス生活を振り返ってまとめたエッセイ集。考え方ひとつで不幸だと思っていたことも幸せになるし、人生は楽しくなる! その中から厳選したエッセイを特別に今後も限定公開予定。お楽しみに!