千葉県市原市を流れる養老川 Photo by 14n2026 / Flickr

チバニアンを生んだ「地質学の聖地」は今どうなっているのか

見た目は「ただの崖」だけれど……
地質年代「チバニアン」のGSSP(国際境界模式地)認定を牽引してきた国立極地研究所の菅沼悠介さんが、大好評の著書『地磁気逆転と「チバニアン」』にまつわるエッセイを寄せてくれました。

一見すると「ただの崖」からどのような新しいサイエンスが立ち上がってくるのでしょうか――。

先人たちのバトン

房総半島の中央部を流れる養老川。その河床の脇には、「千葉セクション」という、かつて地磁気(地球の磁場)が180度逆転した痕跡が残される地層が露出する。

いちばん最近の、といっても約77万年前に起きた地磁気逆転の詳しい様子が、この千葉セクションの研究で明らかにされているのだ。

2020年1月。日本列島を「地球史にチバニアン誕生」のニュースが駆け巡った。

チバニアンとは地球の歴史上の一つの時代(これを「地質年代」という)についた新しい名称で、この時代名の認定において、千葉セクションの地磁気逆転の痕跡が鍵となった。

そもそも、地磁気逆転という現象の発見には松山基範という日本人研究者が大きな貢献をしたことが知られる。

松山基範(1884-1958) Photo by Kodansha Photo Archives

また、千葉セクションに限らず房総半島は、多くの先人が膨大な研究成果を積み上げた日本の地質学の聖地とも言える場所。

なぜなら、房総半島は活発な地殻変動の結果、地質学的にはわずか100万年前に海底で堆積した地層が陸上に露出しているうえに、化石や火山灰を豊富に含むという世界でも稀な好条件に恵まれているためだ。

この聖地、千葉セクションを対象に、私は共同研究者とともに8年ほど前から地磁気逆転の研究に取り組んだ。

そして、この研究で得られた成果が、今回のチバニアン認定においてもっとも重要なデータとなったのだ。先人から受け取ったバトンを我々がゴールまで運ぶことで、初めての日本由来の地質年代名が誕生したといえるかもしれない。

豪雨で地層は大丈夫だったのか

私が3月に上梓した『地磁気逆転と「チバニアン」』(講談社ブルーバックス)では、地磁気発見のストーリーから地磁気逆転の謎まで、千葉セクションでの最新の研究成果も含めて解説を試みた。

また、チバニアンの認定を巡っては、次々に立ちはだかった障害を含めて広く報道され、世間的にも大変注目された。本書では、このチバニアン認定までの経緯についても紹介している。地磁気逆転という現象を知りたい方や、「チバニアンって何だろう?」と疑問に思っている方などに、ぜひ手に取っていただきたい。

さて先日、私は知人の研究者らを案内して千葉セクションを訪ねた。

千葉セクションを含む房総半島は、昨年の台風21号による豪雨で大きな被害を受けたことを聞いていた。しかし、何年も足繁く通った千葉セクションだが、ここしばらくは「チバニアン」認定のための審査対応で時間がとれず、じつはこのときまで現状の確認に来ることができていなかったのだ。