ジャーナリストの河合蘭さんによる連載「出生前診断と母たち」では日本における出産前診断の実例をお伝えしている。親たちも、医療従事者も、様々な思いを抱えているが、大切なのは親たちが「自分たちの意志」で決断し、行動することではないだろうか。

ただ、「決断し、行動する」ためには「理由」が必要だ。今回河合さんがお話を伺ったのは、妊娠前から障害者雇用の仕事を続けてきたという松原未知さん。ブログも話題となり、講演会も多く行っている松原さんは、不妊治療の末の妊娠で、2分の1の確率でダウン症と言われた際に産まない選択肢がなかったという。そこには明確な「根拠」があった。

ふとしたきっかけで障害者雇用の担当に

「どうして障害者を雇用しないで、年間3千万円も納付金を収めているんですか?」

15年前、当時、人材サービス会社にいた松原未知さんは、上司に疑問をぶつけた。
日本では、日本では、障害者雇用促進法によって、企業は雇用者全体の2.2%は障害者を雇用することを義務付けられている(令和2年3月現在)。これを達成している会社は調整金、報奨金などの名目で一定の金額を受け取れるが、出来ない会社は納付金を徴収される。

「わかりました。では、松原さんが担当してください」
そう言われて、松原さんの人生は突然に変わった。障害者と深いかかわりを持つことになったのだ。30代前半のことだった。

手探りで障害のある人たちを面接した採用した。それまで障害のある人とのかかわりは特になかったが、大学では福祉を学んでいた松原さんは社会福祉士、精神保健福祉士の資格も取得した。その頃に結婚もし、夫の転勤について転居したため、次は自治体に就職して、障害を持つ方も多い生活困窮者の支援員をつとめる。そうこうするうち、2011年末、妊娠した子どもがダウン症候群だという確定診断がついた。

今、その息子である佑哉くんは小学一年生となり、元気に育っている。

「私は雇用者になったかと思ったら支援者になり、保護者にもなってしまったんです。次は、私自身が高齢になって障害者本人になるのかな?」

生後1週間ごろの佑哉君。より安全に産むために出生前診断を受けた 写真提供/松原未知

松原さんは妊娠ブログ「お腹の中の子はダウン症」も注目され、わかって産む妊婦であることをネット上にカミングアウトしたパイオニアでもある。

「ほとんどの人がダウン症がわかると産まないと聞いていたたまれなくなり、どこかで産む人に巡り会いたいと思ったんです。障害をもって生まれ、生きていく人生もあることを社会に知って欲しいという気持ちもありました。ネット中を駆け巡りましたが、当時、英語サイトまで探しても、ダウン症児を産もうとしている妊婦のブログはありませんでした」

ブログは世間の注目を引いただけに中傷、2ちゃんねるでのなりすましといった行為にも遭ったが、同じ立場の女性と巡り合うこともでき、励まし合える仲間もたくさんできた。

松原さんほど、さまざまな角度から障害と向き合ってきた人はいないだろう。