実行犯が語る「よど号ハイジャック事件」50年目の新事実【上】

彼らは今、北朝鮮で何を思うのか
伊藤 孝司 プロフィール

着いたのは平壌でなくソウル

ハイジャックされた「よど号」は、北朝鮮まで行くには給油が必要という口実で福岡空港へ着陸させられる。ここで高齢者と女性・子ども23人を降ろし、玄界灘を越えて朝鮮半島へ向かった。

ところが北上していた機体は、途中で大きく向きを変える。着陸したのは、平壌ではなく韓国の金浦(キムポ)空港だった。

コックピットから身を乗り出した小西が、下にいた兵士に「ヒアー、ソウル?」と鎌をかけて聞いた。すると「イエス、ソウル」との返事があったのだ。騙されて韓国へ降ろされたことが分かり、機内は一気に緊張に包まれた。

「よど号」犯の指名手配ポスター。死亡が未確認として岡本武も入っている

日本政府は「よど号」受け入れを、ソ連と「国際赤十字」を通して北朝鮮政府に要請した。それに対して北朝鮮は「朝鮮中央通信」で、領空内の飛行への安全の保障と受け入れの意思を表明。日本政府は乗客を乗せたまま平壌へ行かせようとしたものの、韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)軍事政権はそれを頑なに拒否したのである。

状況は完全に膠着状態に陥る。

犯人が人質を“保護”する事態

「私たちにとって乗客たちは“制圧”しておくべき“人質”に過ぎなかった。少なくとも金浦空港での最初の夜まではそうだった。しかし2日目、『絶対に北へは行かせない』とする韓国政府の嫌がらせによって、機内の状況の極度な劣悪化が生じた。乗客の安全と健康を考慮せざるを得ない立場になり、乗客は“保護”すべき対象になっていった」(若林盛亮)

機体への電源が断たれたために機内は蒸し暑くなり、トイレは溢れて悪臭が漂った。何よりも、窓の外に見えるたくさんの武装した韓国兵が、銃撃しながら突入してくることを乗客たちも恐れたのである。

 

「平壌に飛ぶ方が安全は保障され、日本に帰ることも不可能でない。乗客たちはそう判断し、『一刻も早く金浦を飛び立ち平壌に飛ばせろ』の一点で、ハイジャッカーと意思が一致した」と若林盛亮はいう。

「(乗客には)少なくとも(ハイジャック犯の)話は聞こうという感じはあったと思います。それに韓国に下ろされ、韓国軍が包囲しいつ攻撃してくるか分からない状況の中で、同じ日本人という意識が強まったのも関係していると思います」(魚本)

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