「Global Teacher Prize(グローバル・ティーチャー賞/以下GTP)」と聞いて、「知っている」と言う日本人はまだ少ないかもしれない。イギリスの国際教育機関Varkey財団が設立した「教育界のノーベル賞」とも称される賞で、優勝者への賞金は100万ドル(約1億1000万円)。2019年、全世界150ヵ国、およそ3万人のエントリーのなかから、この権威ある賞のTOP10に選ばれたのが、京都・立命館小学校の正頭英和教諭だ。

正頭さんの授業が世界トップクラスとして評価されたのは、ICT(インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジー)を活用し、これからのAI時代、グローバル社会で生き抜いていくための表現力、創造力、コミュニケーション能力などを教科の壁を取り払って総合的に育む取り組みをしている点だ。AIが数々の職業を奪うと言われるこれからの時代、AIに負けない子どもを育てるために大人たちに必要な常識のシフトチェンジとは? おもに、著書『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』からの抜粋で、今、世界で活躍できる子どもに必要な教育とは何かをお伝えしよう。

大切なのは「やめる勇気」

我が子には、この変わりゆく社会で、どんな時代になっても、生き生きと活躍できる人間に成長してほしい。すべての保護者の願いだと思います。
子どもの可能性は無限大です。どんな分野で才能が開花するかわかりませんから、スポーツ、音楽、アートなど、子どもにいろいろな習い事にチャレンジさせている保護者は多いでしょう。
どんな習い事もやってみないとその良さや楽しさはわかりません。子どもに多様な体験をさせるのは素晴らしいことです。ただ同時に、「やめる勇気」も大切だと僕は思っています。

日本には“石の上にも三年”という諺がありますが、この金言は時代に即していません。なぜならテクノロジーの進歩が加速する時代のキーワードは「時間」だからです。“石の上にも三年”を信じて3年も同じことを繰り返していると、その間に時代が変わって3年間の努力が水泡に帰すことも普通にありえる時代です。
お子さんが習い事を「もうやめたい」と言ってきたら、「一度始めたことをすぐ投げ出すんじゃない。せっかく頑張ってきたんだから続けなさい」と諭す保護者は多いと思います。諦めないで続けるのもある種の美学ですが、今の時代、「投げ出さないこと」は必ずしも美徳ではないのです。
  
イチローさんは、小学校6年生のときの夢がメジャーリーガーでした。サッカーの本田圭佑選手は小学校の卒業作文で「世界一のサッカー選手になる。ヨーロッパのセリエAに入り、レギュラーになって10番をつけて活躍する」と記しています。二人とも諦めずに努力を続けて夢を叶えました。けれど、同じような夢を抱いても、叶えられなかった人は何十万、何百万人といます。

イチロー選手も本田選手も、常にあきらめず、継続し、小さい頃からの夢を叶え、進化し続けた。しかしそこには、「好き」だけではなく、努力すればできる自信もあったからではないか。もし彼らが「これはダメだ」と思うことがあれば、そこにはきっとしがみつかずに別の「自分が輝けるもの」を探したはずだ Photo by Getty Images