勇一郎氏のような、いわゆる「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代の虐待・性暴力の加害者は少なくない。男尊女卑と、躾や体罰として暴力が正当化されていた社会で育ってきたというだけで、すでに間違った学習をしているのである。
親に経済力があり、貧困家庭で育ったわけではなく、むしろ溺愛されてきた傾向がある。親に比べて社会的地位が低いといったルサンチマンも家庭での支配欲求に繋がっている。経済的に自立ができなくても、「家庭を持って一人前」という価値観から自由になれず、家族を持つことへの執着が強い。さらに、家族以外のコミュニティとの繋がりが希薄で視野が狭く、社会的孤立は家族への執着を強めている。
経済的な余裕がないことによって経験値や情報量が減り、画一的な子育てに陥った結果、虐待されている子どもたちも少なくない。虐待を失くしていくためには、健全な子育てができるような経済的環境を整えていくことも重要である。
本件は、血の繋がりの限界、家族の限界を明らかにした事件でもある。
2018年、東京都目黒区で船戸結愛さんが虐待死した事件に継いで、女の子が亡くなった事件としても注目を集めた。しかし、凄まじい虐待を受けていても、親を悪者にしたくないと暴力に耐えている子どもたちも存在している。
勇気を持って虐待を告発した心愛さんを社会は見殺しにした。父親からの虐待が訴えられているにもかかわらず、関係の近い親族に心愛さんを丸投げした児童相談所の責任は大きい。
家族間殺人が多い日本において、そろそろ血の繋がりに頼らない社会システムを構築しなければ、虐待は後を絶たない。
刑務所出所者も、経済的自立が困難な状況から家族に依存せざるをえない状況があり、社会的差別によって孤立した閉鎖的な家庭で再び被害が発生している。加害者の内面を変えることは難しい。
しかし、支援者や同じ悩みを持つ仲間たちとの関わりによって親密圏に依存しない生き方を考え、導くことは不可能ではない。引き続きアプローチを続けていく。