野田市小4虐待死事件の「全容」〜全公判を傍聴してわかったこと

家族の限界、残り続ける「謎」
阿部 恭子 プロフィール

勇一郎氏は助言を聞き入れる姿勢を見せており、対話を重ねることによって、ある程度の認識のズレは修正できたはずである。

重大事件を起こす加害者の多くは、常識が通じにくいというのが加害者に関わる支援者の常識である。被疑者・被告人とのコミュニケーションには工夫を要し、法律家だけで対応が難しければ他の専門家の協力を得て、せめて二次被害を出さない方向に導くべきである。

未だに虐待やDVの理解が不十分な弁護士もおり、それはそのまま被告人の量刑に反映されてしまう。これからの刑事弁護の課題としていただきたい。

掘り下げられなかった動機

勇一郎氏の親族が、弁護人と連絡を取ることができたのは事件から数ヵ月が経過した後だった。

勇一郎氏は、可愛がっていたはずの娘をなぜ虐待死させるに至ったのか、その動機を掘り下げるべく「情状鑑定」の実施を提案したが、年末にようやく臨床心理士が接見できたものの十分な時間を取ることができず、公判において、勇一郎氏が虐待に至った背景について言及されることはなかった。

「情状鑑定」とは、被告人が犯行に至った動機について、面接や心理検査を通して性格や知能、生育歴などから分析することであり、加害者家族支援においては、減刑よりも、家族がこの先、被告人とどのように関わっていくべきかを導くために重要な役割を果たしている。

 

刑務所では面会できる回数や人物がかなり限定される。受刑者は受刑生活の大半を作業に費やすことになり、教育を受けられる時間はごく僅かである。従って、未決の期間に情状鑑定等を利用して加害者に問題を認識させる意義は大きい。

自分の問題を認識できた上で受刑する者と犯行当時と変わらないまま受刑する者とでは、出所後の生活は大きく異なる。拙稿「壮絶…小4女児虐待死事件から考える、虐待加害者たちの『その後』」でも事例を紹介したが、言うまでもなく後者は加害行為を繰り返す可能性が高くなる。