【戦争秘話】沖縄上空で米軍を迎え撃った男たちの「過酷すぎる戦い」

搭乗員たちが見た「空の沖縄戦」第1回
神立 尚紀 プロフィール

沖縄上空で展開された大空中戦

4月12日、「菊水二号作戦」と称して、ふたたび沖縄の米軍に対する航空総攻撃が行われた。岩下は、敵戦闘機を引きつけて攻撃隊の前路を切り開くため、各部隊から寄せ集められた零戦96機の総指揮官となり、うち33機を直接率いて出撃する。

 

「酸素マスクをつけて高度5000メートルで進撃しましたが、沖縄上空に到達したときには敵機の姿はなかった。海上には無数の敵艦艇。前年、フィリピンのミンドロ島に押し寄せる敵上陸部隊を見たときもそうでしたが、バケツ一杯の羽毛を海面にまき散らしたかのような、思わず目を瞠る光景でした。

敵戦闘機をおびき出すという目的にしたがって旋回を続けるうち、はるか下方の飛行場から赤い土煙がもうもうと上がり、敵戦闘機が続々と離陸しているのが見えた。10数分後、厚木の第三〇二海軍航空隊から派遣されていたベテランの赤松貞明少尉機が、サッと私の機に近づき、バンク(機体を左右に傾ける動作)をしながら斜上方をさかんに指さす合図をしてきました。その方向に目を凝らすと、豆粒より小さく見える敵機の大群がこちらへ向かってくる。私は増槽(落下式燃料タンク)の投下把柄を引き、翼をひるがえして増槽が落ちてゆくのを確認すると、大きくバンクを振って戦闘開始を下令しました」

たちまち、沖縄上空で大空中戦が展開された。紅蓮の炎をあげて墜落する戦闘機、落下傘降下する搭乗員、碧い海面には墜落した飛行機の波紋があちこちに広がって見える。

「そのうちに、敵戦闘機・ボートシコルスキー(チャンスボート)F4Uコルセア4機が、私の機に攻撃をかけてきました。私の零戦は胴体に白線2本の指揮官標識が描かれていたので、恰好の目標になったんでしょう。

後上方から次々に攻撃をかけてくる敵機が機銃を発射する寸前に、急旋回して敵機の腹の下にもぐり込むことで射弾をかわす動作を繰り返しながら、スピードを落とさないよう高度を下げていき、ついに数百メートルにまで下がった。

こうなると、急角度で突っ込んでくる敵機は海面に激突する危険が出てきます。入れかわり立ちかわり、執拗に攻撃してもさっぱり効果がないので、とうとうあきらめたのか、敵機は私を追うのをやめ、引き揚げていきました。機銃弾を撃ち尽くしたのかもしれません」

ようやく余裕を取り戻した岩下が上空を見上げると、すでに沖縄の空に敵味方の機影はなかった。岩下は単機で帰途についた。

「島の上空は敵戦闘機が待ち伏せしている危険があると判断して、針路をやや東寄りにとって飛んでいると、はるか左前方を零戦が2機、奄美大島に向かって飛ぶのが見えました。無線はうまく通じない。危ないぞ、と思って心配していると、奄美大島上空で待ち構えていたグラマンF6F ヘルキャット3機がこの零戦の後方から襲いかかり、2機とも瞬時に火を噴いて撃墜されてしまいました……」