ラグビー界の「寡黙なレジェンド」が釜石の復興に刻んだ9年間の足跡

世界選抜に選ばれたV7戦士の熱き思い
大友 信彦 プロフィール

「やっぱり来てよかった」

2019年9月25日、釜石でのラグビーワールドカップ初戦。フィジー対ウルグアイ。スタジアムは、澄み切った秋空から注ぐ眩しい日差しに包まれていた。

試合は、地球の真裏、この大会に最も遠くからやってきたウルグアイが、ワールドカップ2度の8強進出を誇る強敵フィジーを破る金星をあげた。大会初のアップセット。だがスタンドを埋めた1万4025人の多くは、どちらが勝ったかよりも、試合そのものを楽しんでいた。

 

石山もそこにいた。メインスタンドで試合を見届けた石山は「行かない」とつぶやいたのが嘘のような、屈託ない笑顔を浮かべた。

「今日は朝から、試合が終わるまで、実に楽しかった」

鵜住居(うのすまい)の駅からスタジアムまでは1キロもない。その道を歩いてくる間に見た光景は、あまりに鮮やかだった。

年齢も性別も、肌や髪の色も、着ている服の雰囲気も、本当に多彩な人々が、みな満面の笑みを浮かべ、スタジアムへ向かって足取り軽く歩いてゆく。ボランティアの専門学校生たちがハイタッチで迎え、笑顔で互いの写真を撮り合っている。フィジーの、ウルグアイの、そして日本代表のジャージーを着込んだ一団が、一緒になって踊っている。この試合に向けて両国の国歌を練習した子供たちが国歌を歌い、試合中は両国の国旗を振って「ガンバレ、ガンバレ」と叫び続ける。

ワールドカップ「フィジー対ウルグアイ」の試合前、ボランティアと観客たちの交流

これがワールドカップなんだな、と石山は思った。

「よくここまで来たな、と自分でもびっくりしています」

満員のファンの熱気が残るスタジアムを眺めながら石山は言った。

「8年前は何もなかったところですから」

目が潤んでいた。

2019年9月、ワールドカップの試合を見届けて

「ここに来ないでおこうかなと思ったのは、泣いてるところを見られたくなかったからなんです。だから、『私が来ると雨が降るから』とか、『私が座る席があるんだったらそこに釜石の人に座ってもらった方がいい』とか、もっともらしいことを言ってたんですよ。

でも実際にワールドカップが実現したとき、釜石の人たちが迎える様子を見届けること、ここに集まってくるいろいろな人と話をすることも私の義務かな、私にも責任の一端はあるなと……。やっぱり来て良かった。今日の景色は最高の光景でした」