ラグビー界の「寡黙なレジェンド」が釜石の復興に刻んだ9年間の足跡

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大友 信彦 プロフィール

「口だけ、と思われたくなかった」

そして、石山は、2015年にワールドカップの釜石開催が決まると、定年を機に長年勤めた新日鉄グループを去った。自ら伝手を辿って採用試験を受けた新たな職場は大手建設会社の大成建設だった。釜石のラグビーワールドカップ会場となるスタジアムの建設工事を請け負う企業体に参加している建設業者だった。

 

「口だけ、と思われたくなかったんです。もともと、私は身体を張ることしかできませんから」と石山は言った。遠くから旗を振るだけ、声を上げるだけでは自分の気が済まない。最前線に身を置くのが石山の生き方だ。

石山の業務は安全担当だった。建設現場の整理整頓、安全確認、危険なものの除去、視察への案内など業務は多岐にわたった。建設現場は広く、仕事は無数にあり、人数は限られている。石山はどんな仕事でも買って出た。目の前にある、自分にできることは何でもやるのが当たり前。その感覚は、選手としてラグビーの試合に臨んでいたときと変わらなかった。

2017年8月 、石山は釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム建設現場で働いていた

そんななかで、石山が力を注いだのは、芝の育成だった。

どんなスタジアムを作るのか。石山にとって、それはどんなピッチを作るのかと同義だった。8人と8人が塊となって押し合うスクラムでは、芝が剥がれれば足が滑り、スクラムが崩れ、頸椎損傷など重大事故の危険性もある。アクシデントを防ぐには、剥がれにくく、かつ柔らかい芝が望ましい。

現場では何種類もの天然芝とハイブリッド芝が試験養生された。石山はスパイクを履き、圧をかけ、芝の上に転がり、感触を繰り返し確認した。釜石シーウェイブスの選手に来てもらい、実戦と同じように8人対8人で組むスクラムで試した。

スタジアム建設現場の隅では、芝のサンプルが養生されていた
他所のラグビーに行けば、芝を調べる。2015年、スクラム東北ライドで訪ねた石巻ラグビー場にて

結果、採用されたフランス製のハイブリッド芝は、グラウンド全面にファイバー素材のメッシュと天然コルクのチップが敷き詰められ、芝そのものは100%天然芝ながら、メッシュに根が絡みつき、スクラムで圧力を受けてもずれず、天然コルクが衝撃を吸収する優れた芝となった。

2019年7月のテストマッチで訪れた日本代表のリーチマイケル主将は「最高。こんなに良い芝は初めて」と話した。