戦後の物不足がトラウマで「買い溜め」が日常化

また、物不足に対する体験がそうさせる、と主張する高齢者もいる。私の友人のNさんが実家に帰ると、こたつの上に銘柄が違う50枚入りのマスクが5箱も積み上げられていた。「どこで買ったの?」と78歳の母親に慌てて聞くと、マスク不足が報道され始めた頃に、早朝から薬局を何件もまわって購入したののだという。「最近はどこに行っても売ってないね、毎日探してるんだけどね」と言う。

こんなにもあるのに、まだ探している!? まだ買う気なの!? とNさん唖然とした。そして、「買い占めはしてはない。ものすごく恥ずかしいことだよ。手に入らなくて困っている人がたくさんいるってニュースでもやっているでしょ!」と母親を叱った。

しかし、母親は「買い占めじゃない、買い溜めているだけ。私たち世代は戦争中に物がないつらさを嫌なほど経験している。結局は戦後苦労しなかったのは物を持っていた人だった。高齢者はただですら世の中から迷惑扱いなんだから、自分で自分の身を守ろうと買い溜めているだけなのに。娘や息子や近所に迷惑をかけないために、一人で頑張っているのに、なんでそんなに叱られるのかわからない」と泣かれてしまったというのだ。

母親と同居していないNさんは、「とりあえず、もうマスクは十分だから買わないで。少し近所の方にも配ってあげよう」と話すしかなかったという。

医療現場でも不足が深刻なマスク。流通の正常化はなかなか厳しい photo/getty images