認知症ゆえに他人行儀な母

私の家に来てホッとしたかと思いきや、母は他人行儀だった。認知症を患って以来、母の顔から表情と呼べるものが失われていたので、そのときどんな感情を抱いているのか、推し量るのは難しかった。叔母がベッドを貸してくれたことを伝えると、「ありがとうございます」と丁寧におじぎをし、タンスに衣類を入れても「ありがとうございます」と言い、ひたすら「ありがとう」と口にしていたが、その言葉は、娘や娘の家族への態度とは思えない、とても硬いものだった

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姉の具合が悪くなり、大人数の人間がドヤドヤと家に侵入して連れ去った。一人ぼっちになったと思ったら、自分も家からさらわれてしまった。そんな感じだったのかもしれない。

不安気な様子の母だったが、数日すればなんとか馴染むだろうと思っていた。家は単純な構造だから、トイレにも迷わず行けるだろう。ベッドは、テレビを見るのにちょうどいい場所に置いた。風呂は1階だけれど、付き添って行けば、階段から落ちたり迷ったりしない。部屋の間や脱衣所から風呂場への継ぎ目もバリアフリーにしておいてよかった。手すりもたくさん設えてある。今の母の認知度なら、なんとかやっていけると思った。

そのときは。