毎話訪れる、映画のようなカタルシス

さらに重要なのは、これがラブ「コメディ」であることだ。主演のふたりだけでなく、脇を固めるもう1組のカップルが政治体制に翻弄される。視聴者は何度も泣かされるが、暗い気分は長引かない。泣けるシーンの次に絶妙な「笑い」を入れてくる。物語前半から、こまめに伏線を回収してくれるから、毎話、映画を見るようなカタルシスを得られる。

『愛の不時着』より

第五中隊員や北朝鮮の主婦はそれぞれが生き生きした個性を見せてくれる。泣いたり笑ったりしながら登場人物に感情移入するうち、朝鮮半島の南北分断がもたらす悲しみについて考えている。北朝鮮の主婦や兵士たちが、大切な仲間を守るために小さな嘘をつき、体制に抵抗を試みるシーンの数々には、涙を誘われる。そして、どれだけ愛し合った人同士でも、どれだけ仲良くなった友達でも、政治的な分断ゆえに連絡すら取れない現状には、不条理を感じずにいられない。

『愛の不時着』より

ドラマの中でセリは第五中隊の隊員を「弟たち」と呼び、何度も「統一したら……」と話す。ソウルの財閥令嬢として何不自由なく育ったはずのセリは、ある大きな喪失感を抱えて生きてきた。心の穴を埋め、生きる喜びを感じさせてくれたのは、軍事境界線の向こう側に住む北の人々が与えてくれた愛情と安心感だった。家族は血のつながりだけではないし、真実の愛は離れていても生まれるものだ。

良質なコンテンツはイデオロギーを超える力を持っている。北朝鮮にこのドラマを何かの形で見ている人がいて、そこから変化が生まれることを、隣の国から願わずにいられない。

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