北朝鮮だから生まれた「究極の愛の選択」

さらに、舞台を北朝鮮にしたこともまた、ドラマの人気を決定づけた大きな要因だ。現代社会においては当事者同士の思いが通じていれば、たいてい一緒になれる。たとえ既婚者同士であっても、離婚して好きな人と一緒になることは多くの国で可能だ。遠距離恋愛が嫌なら、どちらかが相手の住む町へ行けばいい。ここで捨てるのは、キャリアやお金や思い出だろう。愛の成就と引き換えに、命まで取られることは、少なくとも日本ではありえない。

『愛の不時着』より

しかし、北朝鮮ではそうはいかない。軍事境界線を越えてきたセリを通報せず匿ったことで、リ・ジョンヒョクは自身のキャリアはもちろん、命をも危険にさらすことになる。いくら思いが通じていても、2人は一緒にいるだけで「違法」なのだ。自宅でもホテルでも盗聴されている可能性があり、本心を話すことは危険を伴い、お互い母国にいる時は、連絡すら取れない。

『愛の不時着』より

そんな恐ろしい社会で、人々はどんな暮らしをしているのだろう。このドラマのもうひとつの魅力は、北朝鮮の庶民生活を描いた数々のシーンにある。脱北して韓国に住む人物が監修したそうで、北朝鮮出身者からも、かなり実態に近いと高評価を得ている。

例えば、冷蔵庫がなく地面に穴を掘って食べ物を保存し、遠足には豚を連れて行きその場で殺して焼いて食べる。冷蔵庫があっても停電が頻繁だから、戸棚としてしか使えず、ドラマを見る時は自転車で発電することもある。電車も停電で10時間以上停まることがざらにある。シャンプー、リンスなど韓国製品は市場で裏取引されている。