優れたコンテンツは国境も言葉も、価値観も超えて感動を伝える。韓国ドラマ『愛の不時着』は、そんな作品のひとつだ。2019年12月~2020年2月にかけて韓国のケーブルテレビで放送され、局の最高視聴率記録を塗り替えた。日本でも今、Netflixで総合トップ3位(2020年3月24日時点)に入る人気である。

パラグライダー事故で軍事境界線を越えてしまった韓国の財閥令嬢を、北朝鮮のエリート軍人が匿っているうちに恋に落ちる――。この設定から、多くの人は思うだろう。「非現実的だ」と。おまけにタイトルが気恥ずかしい。

しかし、このドラマはマーケティングから伝わるものと実際の中身にギャップがある。

ただの「王子様がお姫さまを守る」…ではない

表層は、社会主義国に生きる軍服が似合うハンサムなヒーローと、資本主義国に生きる美人の大金持ちが政治体制を超えて愛を育む話だ。強いヒーローは徹底的にヒロインを守る。北朝鮮のエリート将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、韓国の財閥令嬢で起業家のユン・セリ(ソン・イェジェン)を無事にソウルに帰すべく尽力し、彼女を守るために母国で軍事裁判にかけられ死刑になることもいとわない。

『愛の不時着』より

これはまさに、王子様がお姫さまを守るおとぎ話の構図だ。ひとりの女を守るため、大きなものを敵にまわして戦う男――よく見るモチーフを徹底的にカッコよく描いていて、これだけでも、多くの視聴者は満足する。「すぐ、Netflixに入って!!」と私にこのドラマを勧めてくれた親友は、前半のあるシーンを指して「トム・クルーズよりカッコいい!」と評していた。

ただし、このドラマで描かれているのは、強い男が愛する女を守り抜くという、伝統的な性別役割分担に基づく「恋愛」だけではない。