新型コロナ危機、「緊急事態宣言」という「劇薬」の是非

宣言に必要な条件とはなにか
山下 祐介 プロフィール

前提条件――(2)政治とメディアのフィードバック

そしてそのためにも、緊急事態の遂行には、政治とメディアの適切なフィードバック過程が不可欠になるのである。

まず一方で、感染拡大を阻止するには、国民や事業者の協力こそが必須であり、メディアには政策に関わる情報の正しい伝達が求められる。

デマを止めることはもちろん、政府から示される情報が、マスメディア/ローカルメディアによって適切なかたちで流布されねばならない。

メディアを通じて、国民や地域コミュニティ、事業者コミュニティに必要な行動をとってもらえる体制ができていることが、緊急事態宣言の前提になるからである。

他方でメディアには、政治的決定が、精確にそして清潔に行われているかどうかのチェックが求められ、また緊急事態遂行の中で現れる事実や社会的影響を明るみにして、政策を批判し、修正を求める役割もある。

要は、政府が間違いのない政策を実行するには、広報ばかりでなく、公聴の面においてもメディアを動員しなければならないということだ。

しかもこのメディアにむけては、政府は場合によってはパニック等を防止するため、情報制限や事後公開等を行うこともある。

これもまた、そうする必要があることが正しい過程で決定されておらねばならず、かつその必要が終われば速やかにその記録が公開されねばならないわけだが、こうした必要な情報操作が適切的確に行われるためにも、政治とメディアの関係が相当高度なところで信頼し合えるものになっていなくてはならないのである。

以上、(1)賢人政治と(2)メディアのフィードバック体制がきちんと整っていることが、緊急事態宣言が正常に機能するための前提条件になる。

 

緊急事態オペレーションの評価は難しい

ここで注意すべきことがある。

緊急事態の中で遂行される政策の評価だが、これはきわめて難しいものだということだ。

リスク回避は、未来を予測することから始まる。だがここで予測される未来とは、回避すべき未来であって、到来してはならない未来である。

このオペレーションはつまり、予測通りにならなかったということによってその効果が評価されるのだが、その効果は厳密には測定できない。

先の例でいえば、予測された肺炎による死者1万人のうち、9000人の死は回避されたのでカウントされず、残り1000人の感染死者と、オペレーションの犠牲になった十数人の自殺者だけが現実に現れ、記録に残るということである。

要するに、リスク回避のために導入される緊急事態は、それが成功しても失敗しても必ず犠牲を伴い、しかもそのオペで救った数はわからずに、ただ犠牲になった数だけが現れるということだ。

そもそも、そういう差し迫った状態が緊急事態なのであった。