新型コロナ危機、「緊急事態宣言」という「劇薬」の是非

宣言に必要な条件とはなにか
山下 祐介 プロフィール

前提条件――(1)賢人政治の体制

新型コロナウイルスは目に見えない脅威である。

前編では、この目に見えない脅威に対応するための手続きを、原発事故の教訓とあわせて次の三つに整理しておいた。

(1)リスクの可視化(データの収集体制の構築)、(2)科学や専門家の知見の集積と活用に基づく政策決定、(3)情報公開とその共有(そのための政府、メディア、国民の情報リテラシーの向上)の3点である。

これに従えば、新型コロナウイルスの対応においては、次のようなことが大切になる。

すなわち、客観的データに基づいて、専門家集団による科学的知見がまず確立されること。

そしてその科学的知見から導き出された政策の選択肢の中から、実際に何をすべきかを決定し、実施していくこと。その決定には、ただリスクを回避すればよいというだけでなく、回避に伴う悪影響についても精査しうるような、多様な専門家の意見が総合化される体制が必要だということ。

そして何より、これらの過程に関わる情報を適切に公開し、国民が今何をして何をすべきでないのかが明確に分かるようなメディア体制を構築する必要があること、である。

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こうした議論が示しているのは、単純化していえば次のことになる。

緊急事態宣言に見合う非常体制を確立するには、"賢人政治"ともいうべきものを実現する必要があるということだ。

非常事態の政治には、事態を的確に分析する科学コミュニティとの連携が不可欠である。

総合科学による冷静で客観的な知見に基づいて、政治はありとあらゆる選択肢を探り、強権すら発動して、危機の回避を模索しなければならない。

そのためには、政治過程自身が緊急事態に入り、利害や立場を超え、ふだんの政策論争さえストップして、政策決定の正確さを追求すべく、総動員されなくてはならない。

すべては危機回避のために、賢人たちが集まり、自己を捨てて協議し、国民全体のために適切な決定を行う。緊急事態宣言が正しくなされるのには、そうした汚れのない純潔な政治的決定過程が確立されていることが前提になる。