# 恋愛 # ジェンダー

男性の「ありのままの俺を愛してほしい」症候群は、いつ生まれたか

恋愛の歴史から考える
田中 亜以子 プロフィール

だが、このとき面白いのは、彼らが稼ぎ手としての重圧に反発した一方、他方では女性との愛をいっそう理想化していったことである。女性との恋愛こそ、人生において価値あるものだというように。公的領域において男性に課された規範に対抗するために、あくまでも公的領域から排除された女性との関係が、理念的な避難所の役割を果たしたわけである。

すなわち、男性たちは自らに課された性別役割には反抗しながら、恋愛という関係の中で、女性たちにはそんな彼らを受けとめるという「女性役割」を求めた。このようなダブルスタンダードを含みこんで、女性との恋愛は理想化されていったのである。自分は男性役割から解放されたいが、女性には相変わらずケア役割を求めるというダブルスタンダードは、現在においてもみられるものであろう。

女性からの異議申し立て

さて、それでは女性たちは、そのような男性の要求にどう向きあったのだろうか。男性の求める女性像を演じさせられることへの異議申し立ては、早くも明治末には登場する。たとえば、平塚らいてうによって創刊された『青鞜』に、そのような女性たちの声が記録されている。

「青鞜」創刊号の表紙〔PHOTO〕WikimediaCommons

特筆すべきは、男性とではなく、女性同士で恋愛するという選択肢が、現在よりもはるかに「ふつうのこと」として存在していたことである。恋愛とは男女のものであるという強い異性愛規範が、未だ成立していなかったのである。

 

だが、性別役割分業を基盤に据え、男性の生産労働と女性のケア労働(再生産労働)によって富国と強兵を図る近代国家形成のプロジェクトの進展により、同性間の恋愛は、男は仕事/女は家庭という性別役割分業に基づく夫婦というユニットの形成と対立するものとされていった。恋愛のイマジネーションは、異性愛のそれが中心化され、同性愛のそれは周縁化されていったのである。