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男性の「ありのままの俺を愛してほしい」症候群は、いつ生まれたか

恋愛の歴史から考える
田中 亜以子 プロフィール

「本当の自分」をどこに、あるいは、どのような関係性に見出すのか、その解は無限に存在し得るはずである。にもかかわらず、夫婦こそが「ありのままの自分」の領域であるという定式がつくられていった。こうして、職業選択の自由、結婚の自由、移動の自由を獲得した個々人は、性別役割分業体制を基盤とする新たな社会秩序へと組み込まれていったのである。

男性中心の構造

このとき注意すべきは、「天使のような女性が自分を受けとめてくれる家庭」というのが、男性のファンタジーであったということである。

当然ながら、女性の側の物語は、男性のそれとは大きく異なっていた。新たな性別役割分業観の形成によって、家庭を唯一正統な居場所とされた女性たちにとって、家庭とはまさに家事育児という社会的に期待される任務が課される領域であった。そして、家事育児に加え、夫を精神的にケアすることもまた、妻の役割とされていった。

すなわち、女性にとって家庭とは自らを解放する場ではなく、むしろ男性が自己解放できるように、愛の名のもとに慰安することが求められる場であった。女性の「本当の自分」は、議論の蚊帳の外におかれていたのである。

 

もちろん、男女に異なる役割が課される構造において、女性ばかりが苦労したわけではない。立身出世の重圧に苛まれ、十分に成功できない男性のコンプレックスには、すさまじいものがあった。早くも明治30年代には、地位、財、名誉の獲得にがんじがらめにされることへの異議申し立て、青年たちによってなされている。稼ぐための機械にされるのではなく、「自己表現」を仕事にしたいというテーゼもこの頃には語られている。