コロナで世界経済激変…アベノミクスが振り出しに戻る「厳しい現実」

専制支配、老人支配、そして諸々延期…
河東 哲夫 プロフィール

「中国外し」はインフレを生むか

これとは別に、「グローバル・サプライ・チェーンからの中国の退場」というパラダイムの変化が進行中だ。これは、安価な中国製工業製品が店から消えることで、この10年以上先進国で定着していたデフレすれすれの状態を変えるだろうか? 

中国が世界のサプライ・チェーンから外れていくことは、工業製品には価格上昇圧力となって作用するだろう。

しかし、多くの工業製品にとって労賃は原価の10%も占めない。中国に代わって東南アジア、南西アジア諸国での生産を増やすことができるし、「地産地消」で現地でのロボットを多用しての生産もできる。

それに、中国の経済が下向きになることで、原油を初め世界の商品市況は下落するので、これはインフレを打ち消す方向に作用するだろう。

そのため、「カネ余りでもインフレが起きにくくなった」現代の経済の様相は変わるまい。開発途上国は低賃金を活用しつつ工業で豊かになり、先進国はカネを印刷して国民に配り、ロボットに生産させて一層豊かになっていく、という構図が続くだろう

他方、コロナ・ヴィールスは、中国経済の低成長トレンドを決定的なものとする可能性がある。

2008年のリーマン危機では、それを契機とした中国の台頭が顕著であった。

1993年の対外開放以来、急速に流入する外資と、外資が国内で生産する品の輸出がもたらす膨大な貿易黒字(国内への外国直接投資と貿易黒字を足した額は、2000年代を通じて年間30兆円相当を超えた)で高度成長を演出した中国は、2008年のリーマン危機で輸出が急減。

大変な事態になるかと思われたが、中国政府は2年間で60兆円に相当する官民の大融資措置を実行。それによってむしろブームを演出し、その国力を背景に、2012年総書記に就任した習近平は強気の対外政策を実施してきたのである。

中国はその後輸出も回復し、2015年には600億ドル強もの貿易黒字を上げるようになっていたが、トランプによる高関税をきっかけに輸出は減少して、今年1~2月には貿易赤字を記録。そこにコロナ・ヴィールスと春節休暇で、多くの工場が操業停止という状況に陥っている。

2008年の時と違って今回は、中国は内需拡大のための余力を欠く。2008年の大規模融資は、商業銀行だけで90兆円以上の不良債権となって市場に滞留しているし、財政赤字は2019年、すでに約90兆円分に達しているからである。無理して今以上の資金を市場に注入すれば、それはインフレを昂進させる。

こうしてコロナ・ヴィールスは、トランプの下で進行してきた「中国外し」を完成させることになるだろう。

中国産品への高関税、そして中国への高度技術の移転禁止は、米国や世界の企業をして、「中国でモノを作って輸出する」これまでのやり方はもう成り立たないことを認識させた。中国での賃金レベルが上がって来たことも、その背景にある。

これまでは、中国経済は高度成長を特徴としたが、これからは停滞と、それによる国内の利害対立激化が特徴となる。

外国企業にとって、中国の国内市場向けの生産・輸出は相変わらず重要だが、それはもう伸びないし、中国企業との競争にもさらされて、利益率からは魅力のないものとなっていくだろう。

中国はASEAN諸国と大経済圏を作ることができるという見方もあるが、中国とASEAN諸国の間の貿易の大宗は、対米輸出向け製品を作る上での分業の結果なので、米中関係が下火になれば、中国ASEAN経済関係も下火になるのである。

 

低成長の中国国内では、利害の対立が先鋭化する。そのような問題から国民の関心をそらせるために、当局は海外で膨張・冒険政策に出るかもしれない。東南アジア諸国を中心に、中国が共産主義革命を助長していた時代もあったことを思い出さなければならない。

いずれにしても、「一帯一路」関係のプロジェクトは野ざらし、あるいは机上のプランで終わるものが増えるだろう。