思わず感動! わが身を捨てて「家」を修復する「兵隊アブラムシ」

「匠の技」が冴えるリフォーム術を見よ
深川 峻太郎、ブルーバックス編集部

複雑怪奇なアブラムシ社会

まず、アブラムシは基本的に単為生殖(メスがメスを生む)という形式で殖えていくので、子はみんな親と同じ遺伝子を持つクローンである。したがって、基本的にはみんな、メスなのである。

また、社会性を持つアブラムシは「真社会性アブラムシ」と「前社会性アブラムシ」という2つのタイプに大別される。

真社会性アブラムシの場合、同じ齢の幼虫が「生殖型幼虫」と「兵隊幼虫」に分かれる。遺伝子が同じなのに、姿かたちや生き方が大きく違うのは不思議だが、どの遺伝子が発現するかによって違いが生じるのだという。遺伝子の発現のしかたは、後天的な環境によって決まるそうだ。いずれにしても真社会性アブラムシは、兵隊になると、もう生殖型には戻れない。

しかし、一方の「前社会性アブラムシ」はそこまで役割分担が厳密ではなく、ある時期まで幼虫はみんな兵隊である。それが成虫にまで育つと、生殖能力が備わるのだという。兵隊の期間は、外敵からコロニーを守るために戦わなくてはならない。明日をも知れぬ状況で戦いつづけて、運よく大人になるまで生き延びた個体だけが、子孫を残すことができるのだ。

【写真】幼虫と成虫
  モンゼンイスアブラムシの兵隊(1齢幼虫、左)とモンゼンイスアブラムシの成虫

社会性アブラムシには、さらに面白い特徴がある。

「基本的には、おおむね1ヵ月に1世代のペースで、メスが単為生殖でクローンのメスを生むのですが、1年に1回だけ、オスとメスの両方が生まれるんです。そしてこのときだけは、オスとメスによる有性生殖が行われるんですね。やはり、ずっとクローンばかりで繁殖するのは、遺伝的に不都合が生じやすいのでしょう」

有性生殖によって生まれた個体のことを、「幹母」という。そしてなんと、この幹母だけが、虫こぶを作る能力を持っているのだという。

春に生まれた幹母は、虫こぶ作りにとりかかる。できあがった虫こぶの中には、最初は幹母が一匹だけ住んでいる。それが単為生殖でどんどん増殖し、多ければ数百匹のコロニーになるのだ。ところが、季節が進むと、虫こぶに穴が開く。新天地をめざして、よそに「移住」する個体がいるからだ。

「羽根の生えた個体が生まれて、虫こぶの脱出口から飛び立って、別の植物に移るんですね。新しい場所では、虫こぶを作らずに増殖していくことが多いようです」

ええっ、アブラムシにも羽根が生えるのか! あのねのねによって「アブラムシには羽根がない」と思い込まされてきた世代にとっては、かなり衝撃的な事実であった。

命と引き換えの勝利

しかし、そんなことに驚いている場合ではない。今回の探検は、ここからが本題なのだ。兵隊アブラムシは、どのようにして外敵から仲間を守っているのか。それを調べていた沓掛さんらは、実に面白いことを次々に発見したというのである。

まず沓掛さんは、アブラムシの敵であるガの幼虫を、兵隊アブラムシが攻撃しているところを撮影した動画を見せてくれた。

  ガの幼虫を攻撃する兵隊アブラムシ

「ふつうのアブラムシなら、こんな大きな敵がやってきたら抵抗できずに逃げるか、食べられるかしかありません。でも兵隊アブラムシたちは、こうして敵に群がって、針状の口から毒を注入します」

「私たちは2004年に、この毒の主成分がカテプシンBというタンパク質消化酵素であることを突きとめました。タンパク質消化酵素なのに、普通幼虫からは検出されず、兵隊幼虫からだけ検出されたので、通常の消化酵素として機能しているわけではないとわかったんです」

この毒を注入すると、侵略者は死亡するか、麻痺して木から落ちてしまう。国防軍の勝利である。ところが、敵を撃退した兵隊アブラムシたちも戦いによるダメージは大きく、ほとんどがそのまま死んでしまうらしい。敵もろとも木から転落して、そのまま巣に帰れなくなることも多いという。戦えるのは一生に一度きりなのだ。

しかし、兵隊アブラムシの任務は、毒を使って敵を攻撃することだけではなかった。