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「フィラメントはなぜ切れる?」この疑問が、量子力学を切り開く!

原子が1個外れる「テラヘルツ」の世界
「あ、電球が切れてる……」

こんな何気ない日常の一コマが、じつは量子の世界の入り口なのです。
「テラヘルツ」という帯域の電磁波の研究から「なぜフィラメントが切れるのか」という日常の疑問を解決した東京大学の平川一彦教授に、その理由を聞いてみました。

「白熱電球時代」からの技術課題

巷では最近、LED電球でも白熱電球を懐かしむかのような「フィラメント型」が、親しまれているようだ。LEDは、白熱電球に比べて寿命が長いと言われているが、そうは言っても永遠に光り続けるわけではない。

では、フィラメントはいつ切れるのだろうか? 実はこれ、白熱電球の時代から長らく研究されてきた技術課題なのだそうだ。

東京大学生産技術研究所の平川一彦教授は、テラヘルツという帯域の電磁波を操作する研究を続けているうちに、なぜフィラメントが切れるのか、そのあっけないほど簡単な原理を発見したという。

 

その後も引き続きテラヘルツの研究に取り組み、2018年には、第15回江崎玲於奈賞を受賞。平川教授が専門とするこの「テラヘルツ」は、フィラメントが切れる原理の発見と、いったいどんな関係があるのだろうか?──最近の研究成果も含め、平川教授に聞いた。

東京大学生産技術研究所 平川一彦教授

元々はトランジスタ(半導体)の研究をしていたという平川教授。半導体の開発は主に「高速化」を巡って展開されてきた。高速になるとは、トランジスタの中で電子がより速く動くということだ。

「ところがトランジスタの中で、電子がどのように動いているのかを見る手段があまりないんですね。光の測定では、光の強さと光の波長という2つの情報が得られます。

ところが、電流の評価の場合は、どれだけ電流が流れるかしかわからず、情報量が少ないのです。そのため、とてももどかしい測定しかできませんでした」

電子が動くと、その周りに電磁波をまき散らすことが知られている(マクスウェルの方程式)。1990年頃に、その電磁波を測って電子がどう動いているかを調べる技術が発表された時、平川教授はすごく衝撃を受けたという。まき散らされる電磁波の周波数は、ちょうどテラヘルツあたりにあった。

「テラ」とは10の12乗を表す語だ。電磁波のうちミリ波と赤外線の間にあたる、周波数が「テラ」の帯域にあるものを、テラヘルツ波という。波長が長く、透過性があるため、繊維や粉などを通り抜けて可視光では見えないものまで見ることができる。

また光のエネルギーが小さいため、生体への影響も少ない。このような特性から、創薬、宇宙観測、空港などでの危険物検出のイメージングなど、応用範囲がきわめて広い。

古典と量子の中間にある、半導体が苦手な領域

こうして、テラヘルツ波による新しい測定技術に衝撃を受けた平川教授は「テラヘルツ」というテーマに取り組もうと決心した。ところがそもそも、テラヘルツ波は、発生させるのも検出するのも難しい。

下図は、横軸が電磁波の周波数を示しており、ちょうど真ん中あたり(1〜10THz)がテラヘルツ波だ。縦軸は、現在用いることができる発振器の出力を表している。

グラフの左側に並んでいるのは、電子の移動を信号にしている各種電子デバイスで、低周波数では高出力なのだが、いずれも1テラヘルツぐらいのところで出力がなくなるものが多い。