「タマ死す。愛の対象の不在と喪失感に現実はあってないも同然」。
画家・横尾忠則がツイッターでつぶやいたのは、2014年6月2日11時16分08秒のことだった。その二日前(5月31日)に、15年ともに暮らした愛猫タマを亡くしたばかりの彼は、そこから堰を切ったように連続投稿。
ペットロスの入口にあって、寄る辺ない思いをつぶやき続けた彼の投稿は、愛猫家のみならず多くの反響を呼んだ。
死後、有名猫の仲間入りをしたタマは、今年七回忌を迎える。
その節目に〈愛猫に捧げる〉一冊として刊行された横尾の新刊『タマ、帰っておいで』は、当時のつぶやきをもとにした彼の日記、そして死の当日から描きはじめたという91点にもおよぶタマの絵で構成されたレクイエム画集である。
本書の日記は2004年7月からはじまるが、「タマ」こと雌猫タマゴと横尾の出会いは1999年頃にさかのぼる。その時期の横尾は、かつて飼っていた二匹の猫を見送り、彼らの喪に服す意味で新しい猫を飼うことを控えていたのだという。
木々に囲まれた横尾家の庭には、都内にあって珍しく野良猫が自由に出入りする。
ある日、なじみの野良猫たちに混じって、普段あまり見かけたことのない雌猫が庭に現れた。
右目は潰れかけ、体つきはひょろひょろ。
お世辞にも器量よしとはいえない猫だったが、呼んでもエサを食べない他の野良猫たちと違って、彼女だけはふらふらと横尾のもとに寄ってきた。
そのうち台所に上がるようになり、妻の用意したごはんを食べ、いつの間にか横尾家に居つくようになっていく。
亡くなった愛猫たちに礼節を尽くす横尾は率先して飼うつもりはなかったが、来るものは拒まず。猫の貧相な姿からは、それまでの苦労も偲ばれた。
何より、〈自分で運命を切り開いた〉その猫の力を、横尾は受け入れたのだという。