この国の格差が拡大して久しい。厚生労働省の「平成30年 国民生活基礎調査」によれば、平均年収こそここ数年上昇基調ではあるものの、所得額が平均の551万円を下回る世帯は62%を超えており、中間層が縮小する一方で、低所得層が膨らんでいるといわれる。
ところが驚くべきことに、そうした統計的事実と反し、日本人の多くは――富める人も貧しい人も――現在もなお「自分は中流だ」と考えている。
内閣府による調査『平成30年度 国民生活に関する世論調査』によれば、すべての年代において8割以上の人が、自分の経済的階層を「中」だと答えている(「中の上」や「中の下」を排除して「中の中」に絞ったとしても、やはり5割を下回らない)。
こうした「みんな中流」の意識は、「社会のみなが『平等』に中流のステージにいるはずなのだから、たとえ格差がこの社会に生じているとしても、それはあくまで個人の努力や自由な選択の結果であり、社会の問題ではなく個人の責任として引き受けるべきだ」という考えを補強する。
これほど格差が拡大している現状でもなお、「自己責任論」が強固に支持されているのも「人生は『フェアなレース』なのだから、その結果として格差が生じたり、生活が立ち行かなくなる人がいるのだとしたら、それはきっと当人の能力不足や努力不足のせいであるはずだ」という考えが、市民社会が広く共有する「みんな中流」意識によって違和感なく導出されるためでもある。