自宅を売って1000万円で「美しい農村」に引っ越し、夫婦は崩壊した

日に日につらくなってゆく…
週刊現代 プロフィール

妻は免許を持っていないため、夫を病院に連れていくときも、買い物に行くときもタクシーを使わなければならない。生活コストは次第に上がっていき、これからの生活を考えると不安で仕方がないという。

「奥さんと話をすると、『こんなことなら自宅を売却せず、賃貸にでも回して持ち続けておけばよかった』という後悔を口にしています」

精神科医の井貫正彦氏は、田舎以外でも老後の移住に関する「思わぬ落とし穴」があると解説する。

「特にベッドタウンへの住み替えでよく聞く話ですが、移住先に高齢者を診てくれる医療機関が少なくて困るということがあります。

そこに住んでいる人たちは基本的にはサラリーマン。彼らは病院にかかるときは電車に乗って都心まで行きます。そのため、地域には高齢者が通うような大きな医療機関がない、ということが多いのです」

移住する元気があるくらいだから医療施設のことなど考えない。しかし、5年、10年と住み続けるうちに、深刻な問題となって襲い掛かってくる。

「70代になっても、自立して生活ができるのか。そのために必要な施設は十分にあるのか。そうしたことを想定して移住しなければ、老後の生活に苦労します。

 

年を取れば取るほど、新しい地域になじむのに時間がかかるので、移住を考えているという人は、いま一度、同じところに住み続けることのメリットを考え直すのも必要でしょう」(井貫氏)

人生の最後の決断は、人生最大の誤りだった。だが、戻る家はもうない。後悔とともに生きていくには、老後はあまりに長すぎる。

『週刊現代』2020年2月22・29日号より