算数の教室で、米国人少女の「ある笑顔」を前に私が思わず涙した理由

「楽しい」授業のためにできること
冨樫 耕平 プロフィール

仕事の休み時間に、奨学金に応募をし、いくつも銀行を回りましたが、成果はありません。

ならば、まずは米国で職を得て、働きながら大学院へ通うという手もあるのでは。そう考えて、米国にある自閉症センター、学校、病院などの求人にかたっぱしから応募しました。

しかし、米国で働くためのビザや、米国へ渡るための初期費用が壁となり、採用してくれるところも見つかりませんでした。

こうしているうちに、目標を立ててから2年が過ぎてしまいます。それでも私は、何としても行動科学の本場である米国に行くのだ、という決意を変えるつもりはありませんでした。そこで、「日本にいたらどこも採用してくれない。ならば、必要最低限のものだけを持って渡米してしまおう」と考えました。

まず米国に行ってしまい、マクドナルドでもどこでも仕事をくれるところで働きながら貯金をして、お金が溜まったら、大学院へ行こう──。

そこまで思い詰めたとき、ひとつの光が差しました。「どうせ合格しないだろう」と思いながらも、藁にもすがるような思いで応募していたフルブライト奨学金に合格したのです。

こうして、私は世界でトップの行動科学プログラムをもつウエスタン・ミシガン大学大学院への留学を許されました。

ウエスタン・ミシガン大学ウエスタン・ミシガン大学心理学科(筆者提供)

どこの国にも内気な子はいる

念願の留学を果たすことができた私は、米国務省・教育文化局の招待で、ある小学校で算数の授業を見学する機会を得ました。

クラスには20人ほどの生徒がいて、だいたい4人ずつのグループに分かれて授業を受けていました。クラスの担任の先生が、クラス全体に対して質問をするたびに、先生のすぐ前に座っていた子どもたちが、ほかのどのグループよりも早くサッと手を挙げていました。

先生に指名されて答えたあと、「そう!」「正解!」などと褒められると、その子どもたちは、嬉しそうに笑い、お互いにハイタッチをしていました。そんな子どもたちの様子を見て、授業を見学していた私までも楽しい気分になりました。

授業の途中から、クラスの端のほうが気になりはじめました。そこには、うつむいた女の子が2人座っていました。先生の目の前に座っていた子どもたちとは違い、先生がクラス全体に対して質問をしても、うつむいたままです。先生のほうを見ることも、ほとんどありませんでした。

それでも、ある質問に対して、うつむいていた女の子の1人が、ついに手を挙げたのです。ところが、先生の目の前に座っていたある生徒の手のほうが早く、この女の子は自分の意見を共有してもらうことができませんでした。

挙げた手をゆっくりと下ろしながら、この女の子は私の視線に気が付いたのか、私のほうを見てニコッと恥ずかしそうに笑いました。

この一生懸命な笑顔を見て、私の目から涙が溢れてきました。

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