世界一高い2億3000万円の新薬「自己負担額6000万円」は本当か

医師が疑問と誤解に答えます
小島 勢二 プロフィール

実はそれほど高くない「原価」

先に紹介したニュースのコメントでは「2億という値段はふざけている。国際裁判所とかに各国の連盟で提訴したらどうだろう」というものがあったが、仮に提訴したとしても、訴えが認められる可能性は低そうだ。

というのも、昨年の世界保健機構(WHO)年次総会で、イタリアの厚生大臣から提出された医薬品価格の透明性改善をめざす決議案が提出され、採択されたものの、薬品の原価や研究開発費の情報公開に関する項目はノバルティスの本社があるスイスをはじめ、米国や日本などの反対で決議案から削除された。製薬会社にとって原価の開示はとても不都合なのであろう。

昨年には、ノバルティスがわが国で申請した遺伝子治療薬「キムリア」の薬価算定にあたって、製品原価の情報公開が不十分であることを理由に1000万円を超える加算が付かず、米国と比較して1700万円以上低い薬価となった。

ゾルゲンスマはアデノ随伴ウイルスベクターを利用した遺伝子治療薬であるが、わが国におけるウイルスベクター受託製造施設である遺伝子治療研究所は、製法の改善により、それまで1人分5000万円かかったアデノ随伴ウイルスベクターが30万円で製造できたと報告している。また、海外の研究者にレンチウイルスベクターの製造原価を問い合わせたところ、1万ドル以下とのことであった。

名古屋大学ではすでに、キムリアと同類のCAR-T製剤を製造し臨床研究を始めているが、その原価も100万円以下である。いずれにしても、ゾルゲンスマの製造原価は2億円の販売価格と比較して、ずっと廉価であることは間違いない。

「自己負担額6000万円」はホント?

保険適用となった場合の患者自己負担についても誤解が多い。

「保険適用とはいえ、3割負担として6000万円が自己負担か! 一般家庭では手が出ない」

「高額療養費で6000万円の自己負担金のうち5900万円以上は戻ってくるので、患者本人の自己負担は100万円以下」

こうした見解が目立ったが、どちらも正しくない。SMAは小児慢性特定疾病事業の対象疾患であるから、所得によっても異なるが、最高でも自己負担額は1万5000円以内に抑えられる。また、対象となる患児は2歳未満なので、乳幼児医療助成制度も適用される。この制度を使えば、市町村によっては所得制限もなく全額が助成される。

 

つまり、わが国の現行の保険制度では、誰もが2億円の治療をほとんど自己負担なく受けることが可能である。問題は、日本の保険制度がこの負担に耐えられるかである。