世界一高い2億3000万円の新薬「自己負担額6000万円」は本当か

医師が疑問と誤解に答えます
小島 勢二 プロフィール

2億円超の値段がついた理由

ゾルゲンスマを発売しているのは大手製薬企業ノバルティスだが、同社が研究開発した医薬品ではなく、米国のネーションワイド小児病院の研究者が開発した遺伝子治療薬である。

この小児病院から独立した研究者がアベクシスというベンチャー会社を設立し、10数人を対象に治験を行なったところ、その結果が有望ということで、2018年4月にノバルテイスがアベクシスを87億ドル(1兆円)で買収した。

昨年、3349万円の薬価がついて話題となった白血病治療薬の「キムリア」も、ペンシルバニア大学の研究者が開発した製剤で、ノバルティスが自主開発したものではない。アベクシスの株を保有していた投資家の1人は、4億ドル(400億円)の資産を手にしたと伝えられている。

米国の医薬品価格は自由価格で、製薬企業が決定する。ノバルティスはゾルゲンスマに212万5000ドルという高額をつけた根拠として、以下の理由をあげている。

a)スピンラザを10年間使った場合にかかる費用の50%

b)一般に小児の遺伝性希少疾患の治療にかかる費用(440~570万ドル)の50%

c)費用対効果は非営利経済評価機関が小児希少疾患に設定した上限を超えない

医療における費用対効果は、既存の技術を新しい技術で置き換えることで余分にかかる費用を、生存率や生活の質の改善分で割ることで算出する「増分費用効果(ICER)」で評価される。

この評価で使用される指標「QALY(Quality-adjusted life year, 質調整生存年)」は様々な疾患を同じ土俵で比較するために考案されたもので、生存率を生活の質で重み付けしたものである。1人が完全に健康な状態で1年間暮らせる状態が1QALYで、健康が損なわれるとそれを下回り、死亡すると0QALYとなる。

 

一般に1QALYを獲得するのに必要なICER、つまり1人を治療するのに必要な費用の上限は、米国で10万〜15万ドル、日本では500〜600万円とされている。米国の非営利経済評価機関が評価した乳児型SMAのICERは31〜90万ドル(約3300万円〜1億円)で、ノバルティスが付けた212万ドルと比較して、はるかに低額であった。