世界一高い2億3000万円の新薬「自己負担額6000万円」は本当か

医師が疑問と誤解に答えます
小島 勢二 プロフィール

ゾルゲンスマを使えば「完治する」のか?

ゾルゲンスマで治療され2年以上の経過を追えた12人のSMA乳児(生後1ヵ月から8ヵ月、平均3ヵ月)と、コントロール群として積極的な治療を受けていない16人のSMA乳児とを比較した研究が報告されている。

ゾルゲンスマで治療された12人は、全員が人工呼吸器を必要とせず2年以上生存しているが、コントロール群で2年以上人工呼吸器を付けないで生存したのは2人のみであった。

またゾルゲンスマの投与を受けた12人は、最終観察日には2歳以上なので、一人立ちや伝い歩きが期待される時期だったが、サポートなしで立ったり歩いたりできたのは2人のみであった。

なお、SMAは運動神経の病気なので、言語発達や精神発達は正常である。将来、健康な人と同様に生活ができるようになるかについては、リハビリテーションによっては歩行可能となるかもしれないが、治療を受けた全員が普通に暮らせるようになる保証はない。

さらに、乳児期の1回の治療で効果がいつまで持続するかについても、まだわかっていない。SMAは遺伝病であるが、遺伝子は生殖細胞に導入されるわけではないので、治療された患者さんの子孫に同じ病気が発症する可能性は残る。

早期でなければ効果は薄い

ゾルゲンスマの保険適用は生後2歳未満となっているが、生後早期から治療するほど高い効果が期待できる。

多くのSMA患児は、1歳までに呼吸機能が悪化して人工呼吸管理を必要とする。実際、最初に報告された12人がゾルゲンスマの投与を受けた平均年齢は3ヵ月で、1歳以上の患児はいない。

わが国ではSMAの治療薬として、アンチセンスオリゴヌクレオチド製剤である「スピンラザ」が、2017年7月に承認された。スピンラザは、最初の9週に4回、その後は4ヵ月に1回、脊髄腔内に投与する必要がある。スピンラザの薬価は初年度で総額5592万円、2年目以降でも2796万円とゾルゲンスマに劣らず高額である。

筆者が所属していた名古屋大学では、気管切開を受け寝たきりとなった1歳3ヵ月のSMA患児をスピンラザで治療した経験があるが、1年間治療した後も、腕が水に浮いた状態であれば、今まで動かせなかった肩関節が動くようになる程度の改善が見られたのみであった。

 

スピンラザとゾルゲンスマとを同列に論じることはできないが、ゾルゲンスマも同様に、病状が進んだ場合に効果を期待することは困難と思われる。なお海外では、新生児マススクリーニングにSMAを加えて早期診断を行い、症状が出る前に治療を開始することが試みられている。