プロ野球選手を丸裸に…仕事人「スコアラー」の知られざる伝説

わずかな癖も見逃すな!
週刊現代 プロフィール

実はシーズン序盤に、私は今中の投球を徹底的に観察した結果、癖を見抜いていました。投球動作に入り、グラブが顔の前あたりに来たときの手首の向きで、投げてくる球種がわかったのです。

左手首が真っ直ぐならストレート。内側に曲がっていたらカーブ。グラブに隠れていたらフォークという具合です。

これに気づいたときは思わず声が出そうになりましたが、こらえました。そのとき我がチームは首位を独走していたため、この癖を明らかにするのはもっと先に取っておこうと考えたからです。

しかし、ペナントレースがもつれにもつれ、最終戦で優勝が決まることになった状況では、もう隠しているわけにはいきません。

長嶋さんに「実は……」と癖の話をしたところ、私がその試合前日のミーティングを仕切ることになったのです。選手全員にビデオを見せて、「今中の癖がわかった者から部屋に戻ってよし」となりました。

いざ試合になると、打者は今中がどんなボールを投げてくるかわかるので、スイングに思いきりが出て、早々と今中をノックアウトできた。なぜこの試合では打たれたのか、今中が首を傾げていたのを覚えています。

私たちの前では、今中は丸裸も同然だったのです。結果、6対3でリーグ優勝。最高のシーズンとなりました。

この働きを受けて、長嶋監督から「試合中もベンチに入って選手たちに教えてやってくれ」と声をかけられました。

かくして、私の仕事場は、バックネット裏からベンチへと変わったのです。私は、日本のプロ野球で初めてベンチに入ったスコアラーだと思います。