これからの世界のあり方とは? SDGsという言葉が生まれる前から、未来を見据えて活動してきた人たちがいます。社会のため、環境のため、人のため。目指したのは、地球の明るい未来とサステナブルなライフスタイル。先人たちが示した活動の道しるべに、世界を変えるヒントがあります。

遺伝子組み換え作物の台頭や種の独占が危ぶまれる今、種採りし、その種を蒔く本来の農法で、生命力の強い野菜を育てる有機農家がいます。その意義と現状、そして未来への希望について取材しました

“想いが伝わる野菜”のために
在来種の種を継いでいく

普段行く野菜売り場で、在来種野菜を見かけることはほぼないかもしれない。なぜならば、一般的に広く出回っている野菜は、サイズも形も味も均一なF1種だから。安定供給のために改良されたもので、オーガニックであってもF1種は多い。対して在来種は、その土地に根付き、受け継がれてきた野菜のこと。生育時期や形、サイズが不揃いで、かぼちゃだけでもいくつもの種類がある。その多様性は自然そのもの

在来種を中心に育てている有機農家、岩崎政利さんの畑は、野菜がのびのびとやわらかな表情をしていて、静かな色気がある。がっちりと野菜が詰め込まれたような感じを受ける周囲の慣行農法の畑とはあきらかに違う佇まい。

そんな在来種の種と真摯に向き合い、80種にも及ぶ種を40年近く自家採種してきた岩崎政利さんという人が、長崎県・雲仙岳のふもとにいる。

右が奥津爾さん、左が岩崎政利さん。奥津さんは農作業を手伝いながらも、岩崎さんに聞きたい話が尽きない。

もとは慣行農法の農家で「野菜のお医者さん」と称されるくらい、農薬や化学肥料を使うのが得意だったそうだ。ところがあるとき、体を壊して2年近く寝込んでしまう。病床でたくさんの本を読み、畑を囲む雑木林を眺めながら自分の農業を考えた岩崎さんは、今後は自然に寄り添っていこうと決めた。農薬や有機肥料を与えると野菜はひ弱になっていくが、自然に近い環境で育てると、収量は少ないけれど生命力が豊かな野菜ができる

そんな本来の農法で育てるために、自家採種も手がけるようになった。育てた野菜の種を採り、その種を蒔いて育て、また種を採るということを何十年も繰り返していくと、やがてその土地の風土になじんだ形質が固定されていく。その種は環境や気象を知り尽くしているから育ちやすく、病気にも強い。それが在来種であり、全国各地に存在している。いつからか、そんな種が岩崎さんのところに集まってくるようになった。岩崎さんはその一つ一つにラベルを貼り、どんな人から受け継いだ種なのかを忘れないようにしている。

種採りの手間をかけるということは、種の背景や育てた人の気持ちも一緒に継いでいくということ。

種はその土地の歴史や文化、関わってきた人々の想いを背負っています。大切に継がれた種は、人から人へと伝わっていく。門外不出にしたくなる気持ちもわかりますが、そうするといつか途絶えてしまうかもしれない。だから種を旅に出すことは必要なんです」