【PR】ある受付の女性が日本生命「初の女性取締役」となるまで

CHIZURU YAMAUCHI
HIROKI ANDO

山内千鶴・安東弘樹

2020.03.26 Thu

左)山内千鶴さん(日本生命保険相互会社 取締役常務執行役員) 右)安東弘樹さん(フリーアナウンサー)

日本生命における女性活躍や、男性従業員の育児休業取得、SDGs取り組みなどを、責任者として牽引している同社取締役常務執行役員の山内千鶴さん。従業員数が7万人を超える巨大組織で、新しい活動を社内で推進するうえで見つけた成功要因や苦労した点を、フリーアナウンサーで二児の父親である安東弘樹さんがうかがいました。(取材&文・平原悟/写真・村田克己)

「受付」から学んだ仕事のおもしろさ

安東 山内さんは昨年7月、日本生命としては初の女性取締役になられました。取締役就任が決まったときはどのように思われましたか?

山内 本当にびっくりしました。私が日本生命に入社した45年前はもちろんのこと、10年前に女性の活躍推進を担当するようになったときでも、自分がなるとは全く思ってもいませんでした。

今にして思うのは、転機になったのは42歳で総合職にコース変更したとき。当時の上司が「自分のことだけを考えるな。誰かが棘の道を切り開かないと後輩が苦労するばかり。その役を君が果たせ。」と背中を押してくれました。応援してくれている人がいると心強く、自信にもなります。周りからの支援のお蔭だと思っています。

安東 女性管理職の割合が主要国と比べて低い日本では、女性が管理職になるだけでも大変なのに、取締役になるには更に高いハードルがあったことと思います。それを乗り越えられた原動力は何だったのでしょう?

山内 仕事がおもしろかった、ということですかね。

安東 おもしろい、ですか。とてもポジティブですね。入社した時からずっとそう感じていたのですか。

山内 どうでしょうか(笑)。入社時の配属は大阪本店の受付担当で、当時は3年も勤めれば寿退社するのが一般的で、私もそうなるものだと思っていました。ところが当時の先輩に、受付としての話し方や所作などを厳しく指導していただき、誇りを持って仕事をするようになり、仕事がどんどんおもしろくなりました。 

受付業務で大事なのは、来客される方の顔と名前を覚えることです。当時、先輩から「今、通った方はどこの誰?」と抜き打ちテストをされるので、来社される方のお顔や服装の特徴をメモして必死で覚えました。ホテルの喫茶店で働くスタッフは、常連のお客様がコーヒーを注文する際の、お砂糖やミルクの有無を常に頭に入れていると聞き、そのやり方を学びに行ったこともあります。受付業務は評価がタイムリーに分かるので、喜んでいただけると益々工夫するようになる。その繰り返しで、仕事の面白さとプロ意識を持って仕事をするという基本姿勢が身についたと思いますね。

安東 一方でキャリアアップしてから変わったと感じることはありますか?

山内 特にこの10年間は、女性活躍推進などの新しい分野に取り組み、一から作り上げることへの大きな充実感がありました。日本生命は創業130周年を迎え、今後も持続可能であるためには、変えてはいけないものと、変わらなければいけないことがあります。経営に近い職務に就いてからはそうした見極めを意識するようになりました。

男性育児休業取得率100%にこだわった理由

安東 この10年で、山内さんをはじめ日本でも女性がどんどん活躍するようになりましたが、昨年末に各国のジェンダー・ギャップ指数(男女平等ランキング)が発表され、日本は153カ国中121位でした。

山内 一昨年が110位だったので、残念ですが下がりましたね。日本も少しずつ前に進んでいると思いますが、海外はそれ以上に進んでいるため相対的に順位が下がってしまったのでしょう。

安東 山内さんは、こうした現実を少しでも改善するため、社内で女性管理職の割合を増やすことと、それを支えるものとして男性従業員の育児休業取得の推進をスタートしたとお聞きしました。

山内 2020年度までに女性管理職割合を20%にする、という目標を掲げてきましたが、これは達成する見通しです。次は2020年代に30%を目指したいと思っています。

安東 20%までいけば国内企業ではかなり高い数字になりそうですね。ここまでで一番苦労したことはどのようなことでしょうか。

山内 最初に当社が数値目標を掲げたのは2014年ですが、具体的な目標を掲げることが一番の難題でした。目標を掲げると相応しくない人材まで登用しなければいけなくなるのではないか、という議論があり、これを突破するのに1年以上かかりました。それも正論ではあるのですが、ここは覚悟をもってやりましょう、と押し切りました(笑)。

安東 いつか実現しよう、ではなかなか達成できませんね。更にこうした女性が活躍するために不可欠なのは男性の協力ですよね。今でこそ「イクメン」という言葉も一般的になりましたが、日本生命では7年前から男性従業員の育児休業取得率100%を目指し、7年連続で達成されたとのことですね。

山内 この時も、先程と同様に100%という数値を掲げることに疑問の声がありました。確かに育児休業を取得するしないは本人の自由意思ですが、それ以上に、全員が取得することで社内の意識を変えたいと強く思いました。取得推奨期間を少なくとも1週間としたのも、現実的な全員取得を考えてのことです。

安東 取得する人の割合をとにかく高めることを重要視したということですね。短くすることで、すぐに取得率は高まりましたか。

山内 いえ、支社や営業部からのプレッシャーはすごかったです(笑)。そこの所属長からは1週間だとしても「育児休業が取れるわけがない!」という意見も多く出ました。私も丁寧に説得しましたが、なかなか理解してもらえないことがあり、このままではだめだと思い当時の会長に報告に行きました。

安東 会長に直談判ですか?

山内 当時の会長は、女性の活躍推進を決めた時の社長だったので「ちょっとご報告にまいりました。」と。あくまで柔らかいトーンです(笑)。実は支社や営業部からこういう意見が出ています、相手の立場も分かりますから難しいですね、と説明したところ「納得して決めたことだ。自分が協力してやる。」と言ってくださって。

安東 正論でガンガン押しまくるのではなく、そういうテクニックも駆使しながら協力を仰ぐことも必要ですね。

山内 実際に育児休業を取得した従業員にアンケートをとったのですが、次回も機会があれば取得したいという意識が芽生えたり、家族や職場に対する意識や職場における働き方にも好影響を及ぼしていることが分かり、やって良かったです。

役員・従業員7万人の意識を変えた「工夫」

安東 今後、女性の活躍をさらに進めるためには、どのようなことが必要とお考えですか。

山内 女性活躍と言われても、「私はそこまで望んでいません。」という女性もいます。そうした女性の意欲をどう高めていくかが大事です。

安東 活躍を望んでいない人に対するマネジメントは、簡単ではなさそうですね。

山内 おっしゃるとおりです。そこで管理職には4つの「キ」を持って接することをアドバイスしています。まずは「期待する」、次は「機会を与える」、そして「鍛える」、最後は「決めつけない」。特に「決めつけない」は男性側の過度な配慮の場合が多いのです。子どもが小さいからこの仕事は彼女には無理かな、と考えるケースがあるとします。それは上司としての配慮から出たことなのですが、結果として女性が成長するチャンスを奪っています。そうではなく、色々な選択肢を提示して、最終的な決断は女性に預ける。それが結果的に女性の自立を促すことになるのではないでしょうか。また、人生100年時代、女性も働き続ける覚悟を持つことが重要です。

安東 意識を変えることは私も大賛成ですが、日本生命は7万人もの従業員がいらっしゃいます。これだけの規模で意識を浸透させるためにどのような工夫をしているのでしょうか。

山内 一つはメディアの活用です。「男性従業員の100%育児休業取得を目指します。」と発すると、当時は珍しかったためメディアが取材に来てくれて、それを見た従業員が「うちの会社はそんなことをしているのか。」と社内に逆流しました。

また、意識を社内で横展開してほしいと思い、育児休業の体験者にお願いして社内イントラに育児体験記を寄稿してもらいました。ある父親は子どもがはじめて寝返りをうった瞬間に立ち会えた時の感動を、「この子どものために頑張ろうと思った。」と書いてくれました。こうした家族の絆の深まりを見て、独自に作った「いいね」ボタンを押す従業員が大勢出て、良い取り組みだと、自然に浸透していったようです。

安東 SNSでの情報拡散の手法ですね。

山内 さらに育児休業をいつ取得すればいいか分からない人のために、このタイミングで取得するといいですよ、とおすすめの時期を提示しました。例えば一人目の子どもの場合、実家で出産することが多く、戻ってくるのはだいたい1カ月後なので、ここで取るといいですよ、と。すると迎えに行った先の奥様のご家族から「いい旦那さんだね。」と言われて本人は喜ぶし、日本生命の評価も上がる。

安東 策士ですね(笑)。それは山内さんご自身、子育てを経験しているから出てきたアイデアでしょうね。

山内 従業員からも多くのヒントをもらっています。例えば、「パパママランチ交流会」という当社のパパやママがお昼休みに集まって情報交換する場を作りましたが、その中で出てきた話材を活用して、そのメンバーと一緒に推進ガイドブックを作成しました。

SDGsとエコバック

安東 さて、ここまで山内さんが推進しておられる様々な活動についてお話しいただきましたが、それらは「SDGs」とも深く関わっています。SDGsとは、Sustainable Development Goalsを略したもので、「持続可能な開発目標」として2015年に国連総会で採択されました。17の目標が掲げられ、2030年までに達成を目指そうとする、世界共通の目標です。

山内 貧困や飢餓、テロや戦争、社会的格差、気候変動、その他様々な問題を背景に、このままでは地球がもたないという強い危機感から誕生したものですね。

安東 ただ、このSDGsですが、昨年9月時点で、日本における認知度は37%に止まっています。回答者をビジネスパーソンに絞ると44%、株式投資者のみでは50%にそれぞれ達するものの、残念ながら一般に浸透しているとはまだ言えない状況ですね。

山内 より多くの人に知ってもらうためには、SDGsが決して難しいことではない、ということをまずは理解することが必要かも知れません。

安東 山内さんが普段の生活で心がけていることなどありますか。

山内 環境面では、多くの人が実践している「3R」を意識しています。3Rとは、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)で、リデュースとしては、買い物をする際はマイバッグを持参してレジ袋を受け取らないようにし、リユースは、シャンプーやハンドソープなどは詰め替え可能なボトルの商品を選び、使い切ったら中身だけを購入してボトルは使い回すようにしています。リサイクルは「分ければ資源、混ぜればゴミ」の考え方に立って分別回収を実践しています。

これらを意識してもゴミをゼロにはできませんけど、ほんの少し生活習慣を変えるだけで、環境問題の解決に貢献できると考えています。

安東 改めて何かを始めなくても、実は既に知らない間に取り組んでいることもある。それを知るだけでも、意識が変わるのでしょうね。スーパーでのレジ袋の有料化も増えてきました。これも地球環境に配慮をしようという動きの一環ですね。

山内 丸の内で働いている従業員を対象に調査したところ、約7割が1日に1回はコンビニを利用していました。そこで日本生命では、今年の2月からファミリーマート丸の内オアゾ店と協業し、レジ袋の削減を目指すものとして、エコバッグを従業員に配布し、使用を促しています。

安東 丸の内の全従業員に配布したのですか?

山内 いいえ。このバッグは各自が管理するのではなく、所属ごとに配置して共用することにしました。女性は既にエコバッグを持っている人も多いですし、職場の目に付く場所に常備することで意識も変わりやすいと思っています。

安東 マイバッグが必要な時に限って、持っていくのを忘れてレジ袋をもらうことになったという経験があるのですが、職場の目立つところにあればその心配が減りそうですね。

山内 そうですね。でも、正直まだまだ浸透しきれていないのが現状で、コンビニで従業員がレジ袋をもらっている姿も見かけます。社を出る時に持っているかチェックしたいくらいですが、それは我慢しています(笑)

安東 色々と工夫されている日本生命の取り組みはとても参考になると感じました。それを踏まえて後編では、日本生命がSDGsの目標達成に向けてどのように取り組まれているかお聞かせいただきたいと思います。

後編はこちら

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山内千鶴・安東弘樹(やまうちちづる・あんどうひろき)

山内千鶴:日本生命保険相互会社 取締役常務執行役員。1975年同社に入社。1999年総合職へコースを変更後、営業部にてマネジメント職務・ライフプラザ店長等を経て、2008年より人事部輝き推進室(室長)、2015年に執行役員 CSR推進部長、2019年より現職務。
安東弘樹:フリーアナウンサー。1991年TBSに入社後、『アッコにおまかせ!』『王様のブランチ』ほか幅広いジャンルを担当。2018年3月にTBSテレビを退職。現在は『バラいろダンディ』(TOKYO MX)などのレギュラーの他、『DAYS』(ニッポン放送)「MOTIVE」(bayfm)ほか、多数出演。