視覚障碍者の視力を取り戻す「ゲノム編集治療」の臨床試験が始まった

遺伝子(DNA)を手術する時代の到来
小林 雅一 プロフィール

「ゲノム編集」治療法の現状と展望

他にも、ゲノム編集を使って患者の「体内」で病気の原因となる遺伝子を修正する臨床試験は既に実施されている。ただ、これは第一世代のゲノム編集技術「ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ」で遺伝性の代謝疾患を治す試みで、これまでのところ目立った治療効果は報告されていない。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57690

これに対し今回の臨床試験で使われたクリスパーは第3世代のゲノム編集技術に該当し、旧世代の技術に比べて遺伝子操作の精度や汎用性、使い易さ等の点で勝るとされる。その分だけ、臨床試験に対する周囲の期待も高まっている。

他にもクリスパーを使ったゲノム編集治療は、一部の癌や血液疾患の患者に対して既に実施されている。ただ、これらはいずれも患者の体内からT細胞や造血幹細胞を一旦体外に取り出し、ゲノム編集(遺伝子操作)を加えた上で体内に戻すという「体外」治療法だ。これらの臨床試験では、大きな治療効果が報告されたケースと、そうでないケースが入り混じっている。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68794

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70406

このため、今回のクリスパーによる「体内」ゲノム編集治療もその効果については予断を許さない。特に今回、被験者となったLCA患者が高齢であることから、治療効果はあまり期待できないとの見方もある。同じ治療法でも年少の患者の方が、網膜から脳の視覚領域への情報伝達ルートが若くて良好な状態に保たれているので、より効果が期待できるとされる。

 

しかし逆に言えば、高齢の患者で何らかの治療効果が見られた場合、若い患者に対しては、それ以上の効果が期待できることになる。仮にLCAのような眼疾患で成功すれば、以降はハンチントン病や認知症、筋強直性ジストロフィーなど、より広範囲の病気に同様の治療法が適用されていくとも期待されている。

従来のように患者の身体を手術するのではなく、病気の根本的な原因である遺伝子(DNA)を手術する時代は意外に近くまで迫っているのかもしれない。

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