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視覚障碍者の視力を取り戻す「ゲノム編集治療」の臨床試験が始まった

遺伝子(DNA)を手術する時代の到来

視覚障碍者の視力を取り戻すため、失明の原因である遺伝子を体内で直接修正する――従来医療の常識を根底から覆す、奇跡の治療法に向けた取り組みが始まった。

米国の先端医療研究所「エディタス・メディシン」と「Casey Eye Institute」の共同研究チームは今月、ゲノム編集技術「クリスパー(・キャス9)」を使い、レーバー先天性黒内障の患者を治療する臨床試験に着手した。

その被験者となったのは、両目とも、ほぼ見えない状態にある高齢患者。Casey Eye Instituteの眼科医が、クリスパーによるゲノム編集治療法を患者に適用した(この治療法はエディタス・メディシンとアイルランドの製薬会社アラガンが共同開発したもの)。ただし治療は片方の目に対してだけ行われた。

この臨床試験はいわゆるフェーズ1に該当し、治療の効果よりも、むしろ、その安全性を確かめるための試みとされる。従って、医師の手で患者の眼底に注入されたクリスパー試液は、考え得る最小限に止まった。それでも何らかの治療効果が現れるとすれば、それは数週間~数ヵ月後になるとみられている。

もしも、そこで治療の安全性と、たとえ僅かでも視力の回復など治療効果が確かめられた場合、この患者のもう片方の目にも同じ治療法が試される。また年齢が3~17歳の若い患者にも、この臨床試験が拡大される。被験者は最多で18名になる計画だ。

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CAR-Tは「体外」での遺伝子操作

このように遺伝子を操作する「遺伝子治療」は、実は1990年代から既に存在していた。それは当初、「細胞の癌化を引き起こす」など重度の副作用から患者を死に至らしめるケースもあったが、最近では技術の飛躍的な発達によって極めて効果的な治療法(治療薬)へと結実している。

中でも最もよく知られているのは、スイスの製薬会社ノバルティスが提供する「キムリア」だろう。これは一般に「CAR-T」と呼ばれる免疫療法の一種だ。この治療法では、白血病患者の体内から取り出したT細胞(免疫細胞)を、ある種の遺伝子技術で操作することにより、癌に対する免疫力を大幅に強化する。

このようにパワーアップしたT細胞を患者の体内に戻し、それが癌化した血液細胞を攻撃することで白血病を治す――これがCAR-T療法であり、これら一連の手続きを自社の製薬施設を介して一種の「治療薬」として提供しているのが、ノバルティスの「キムリア」なのだ。

 

ただ、以上から分かるように、「遺伝子を操作する治療法」と言っても、それは体内で病気を引き起こす異常な遺伝子を直接修正しているわけではない。むしろ「T細胞の免疫力を強化する」ための遺伝子操作自体は、患者の「体外」で行う「間接的な」治療法だ。

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