僕が本を読むようになったきっかけは、高校のクラスメイト加藤くんでした。
同じクラスにはなったものの、それまで全然仲がよくなかった加藤くん。試験期間に朝の通学電車で、たまたま一緒になった彼がふと、僕にSFマンガ『超人ロック』の話をし始めたのです。
「超おもしろいよ、こういう話でさ~」
読んだことがなかった僕は、その話がおもしろくて、先を聞きたくなりました。
試験は午前中で終わるので、帰りも一緒に帰ろうぜとなりましたが、駅まで30分の道だけでは足りませんでした。駅前の喫茶店に入って、午後1時から夜8時までずっと喋り続けました。
加藤くんのすごいところは、どんなことでもすべて同じレベルで話すところです。
「村上春樹、読んでないの? 最初に読むなら、まあ『風の歌を聴け』が彼の1冊目だけど、俺は2冊目の『1973年のピンボール』が好きかな」
純文学をマンガと同じレベルのものとして話すのです。
教養と娯楽が並立するのかと、僕は密かに驚いていました。
僕だって、映画も音楽もテレビも詳しいつもりでしたし、それなりに勉強して進学校と言われる学校に入りました。加藤くんも、勉強はかなりしたはず。それなのに、加藤くんのほうがメチャクチャ詳しいのです。
後日、加藤くん家へ遊びに行くと、すごい数の本がありました。
でも、考えてみたら、僕の家にもたくさん本はあったのです。
それからの僕が、本をむさぼり読むようになったのは言うまでもありません。