旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、装幀家の水戸部功さんに選書してもらいました。

建築も、育児も、
旅や探検のきっかけになる

建築を考える
ペーター・ツムトア 著、鈴木仁子 訳/みすず書房(2012)
光と影の調和に取り組み、類い稀なる建築空間を生み出してきた著者による初エッセイ。美とは、光とは、理想の空間について綴られる。

建築が旅の目的になることが多い。3年前の渡欧の目的はぺーター・ツムトア設計のブルーダー・クラウス野外礼拝堂。道中で、ドイツ・ケルンにあるツムトア設計のコルンバ美術館にも立ち寄った。

駅前商店街の中といった立地だが、期待以上の素晴らしさ。戦災遺跡を保存した要塞のような外観、抽象的な構造と素朴な素材。ツムトアの美学が隅々にまで行き渡った仕事に感動し、期待を高めて、再び礼拝堂を目指す。

車で1時間、田舎町に到着。小さな看板に礼拝堂の写真とここが駐車場であることが記されていた。車を駐め、15分程歩いた先の広大な丘の上、地層が隆起したような、建築物とも彫刻作品ともつかない褐色の建物が悠然と建っている。自然と拮抗する建築の中で、静謐な空気、深い思考、厳しくも心地いい緊張感に包まれた。ツムトアの『建築を考える』は彼の建築を追体験させてくれる。

火山のふもとで
松家仁之 著/新潮社(2012)
夏の軽井沢、建築事務所を舞台に若き建築家の研鑽の日々と密やかな恋が繰り広げられる、長編デビュー作。第64回読売文学賞受賞。

松家仁之の『火山のふもとで』の舞台は吉村順三作、軽井沢の山荘。私有地なので外からしか見ることができなかったが、遠目にみる山荘は確かに物語を蘇らせた。作中に登場するアスプルンドの建築を訪ねるのが今の目標だ。

探検家とペネロペちゃん
角幡唯介 著/幻冬舎(2019)
著者は数々のノンフィクション賞を受賞する探検家。可愛い盛りの娘の言動を、時に冷静に、時に親バカに考察する子育てエッセイ。

最後に育児エッセイ『探検家とペネロペちゃん』を。強靭な肉体と精神、ユーモアを併せ持った男、角幡唯介。生死を賭けた探検をしてきた彼が、自身の子供との生活で、極地でに匹敵するほど思考し、悶絶する様子がめちゃくちゃ面白い。人生は探検そのものだ。

PROFILE

水戸部功 Isao Mitobe
1979年生まれ。最近の装幀の仕事にテッド・チャン『息吹』(早川書房)など。第42回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。


●情報は、2020年1月現在のものです。
※本記事内の価格は、すべて税込み価格です。
Photo:Toru Oshima Edit:Yuka Uch