トイレットペーパーを奪い合い、店員に暴言を吐き散らす人々の心理

コロナ騒動で見えた「カスハラ」の実態
池内 裕美 プロフィール

また、個数が制限されると、人はその制限に背き、自由を回復したいといった気持ち(心理的リアクタンス)が働く。その結果、益々その商品が魅力的に見え、「今買っておかないと、いつ手に入るかわからない」という焦りも手伝って、一人一人が個数制限いっぱいまで購入しようとする。

そうなると待ち受けているのが、「共有地の悲劇」だ。これは、誰もが利用できる共有資源を、個々人が自分の利益を最大化するために乱獲した結果、全体の資源を枯渇するという最悪の結末を招くことを示した経済学の法則を指す(Hardin,1968)。空っぽの陳列棚は、まさに悲劇となった共有地といえるであろう。

共有地の悲劇の次に待ち受けているのは、英国の哲学者トマス・ホッブズ(Hobbes, T)が唱えた“万人の万人に対する闘争”ともいうべき状況だ。今回のマスクやトイレットペーパーのように、誰かが買い占めたことで市場が荒らされた結果、商品が手に入らなかった人には当然不満が残る。

その不満の矛先が他の客に向けられた場合、消費者同士の争いとなる。実際、客同士がマスクを巡って殴り合う姿に驚いた人も少なくないだろう。一方、不満の矛先が店員に向けられた場合、それは苦情・クレーム*2、すなわちカスハラとなる。

問題視される“世直し型クレーマー”

不満が苦情の生起につながることは、これまでの苦情研究においても確認済みである(池内,2010)。少し話がそれるが、ここで一つ、近年問題視されているクレームの事例として「世直し型クレーマー」を紹介しよう。特に高齢者に多く、持論や武勇伝を延々と語るので「筋論クレーマー」と呼ばれることもある。

 

「私は某企業で営業部長をやっていたが、この店の品揃えは悪すぎる」などの言い分が典型例だ。この場合の不満の根底には、社会とのつながりが薄れていくことからの孤独感や寂しさ、人から認められたいといった承認欲求などの心理が考えられる。ちなみにこの手のタイプに遭遇したら、まずは相手の言い分に共感し、貴重なご意見を頂いたことに感謝を示すことが重要だ。