「信仰心が足りなかったらからだよ」

けれど、3年目を迎える直前で、ぼくは事務所を辞めることにした。

レッスンを受けるには年間で数十万円という大金がかかる。これはレッスン料という名目で支払っていたお金だが、いまとなれば、それも事務所の商売だったのだと思う。振り返ってみれば、ぼくが所属していた事務所には、売れっ子のタレントがひとりもいなかった。ぼくらのようなレッスン生から支払われるお金で、事務所は運営されていたのだ。そこに対して文句はない。ただ、まだ二十歳そこそこの人間にとって、数十万円のお金を毎年払うことは容易ではなかった。ぼくは両親に頭を下げて払ってもらっていたけれど、さすがに3回目は許されないだろうと思っていた。

社長に退所の意志を告げたとき、彼はあっさりとそれを受け入れた。

東京から地元に帰る新幹線のなか、ぼくはこっそり泣いた。悔しかった。お金があれば、レッスンを続けられたかもしれない。いや、ぼく自身にもっと魅力や才能があれば、とっくにデビューできていたかもしれない。そもそも、本当に俳優になりたいのならば、ひとりで貧乏暮らしをしてでも必要経費を捻出し、もっとその世界に没頭するはずだ。それをしないぼくは、ただの臆病者の根性なし。そんな事実を突きつけられ、大きな挫折感を味わった。

やれることは必死でやってきた。努力もした。それでも叶わないこともある。挫折感を抱きながら地元に帰ったのだが…Photo by iStock

帰宅したぼくは、すぐに両親や祖母に事情を説明し、夢を諦めることを打ち明けた。ずっと応援してくれていた両親は、とても複雑そうな表情を浮かべる。それを見て、ぼくの胸はひどく痛んだ。

そんなぼくに、祖母は言った。

「あんたの夢が叶わなかったのは、信仰心が足りなかったからだよ」

ショックだった。信仰心が足りない。その一言で、それまでの2年間も、ぼく自身の葛藤も、すべてを否定されてしまったのだ。当時、朝晩のお祈りを欠かすこともなく、友人を宗教の集まりに誘い、できる限り神様への信仰を形にしてきたつもりだった。それなのに、まだ足りないのか。

お前には才能がない。お前はブサイクだ。だから俳優になんてなれるわけがない。そう断言される方がまだマシだと思った。